澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -360-
湖北天門学院生徒のデモを鎮圧する中国警察

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 湖北省天門市には、同省人民政府が建てた「天門職業学院」(Tianmen Vocational College。以下、天門学院)という高校が存在する。
 今年(2019年)3月11日、その高校生が学院や地方政府に抗議して、街でデモを行った。既に2019年の湖北省の技能大学入試(実技と筆記)の出願が締め切られ、生徒達約1300人が4月中旬の入試を受験できなかったからである。
 これは、毎年6月に実施される「全国大学統一試験」(普通高校生が受験)ではなく、職業学校の高校生が受験する技能入学試験である。2012年、技能大学試験改革は全国に先駆け、湖北省と遼寧省で行われた。
 およそ1000人の生徒達は「青春を返せ、夢を返せ」というスローガンの横断幕を掲げ、平和裏に行進していた。
 ところが、人民政府や天門学院は、警察や特別警察(SWAT)の出動を要請したのである。そして、生徒らと警察が対峙した際、言い争いから暴力沙汰になった。
 数人の生徒が警察から暴力を振るわれ、1人の女子生徒が倒れて動けなくなっている。また、ある男子生徒は、警官の棍棒で殴られて、頭にコブができた。彼らは病院へ運ばれている。
 よく知られているように、中国共産党は、常に物理的な力で人々を抑えようとする。ただ、今回は、まだ17歳の生徒達である。同党のやり方は、如何なものだろうか。
 さて、その天門学院の杜撰な経営は、我々の常識を遥かに超えていた。
 学院は、毎年、生徒集めに苦労している。そこで、全国の貧しい農村出身の中学生も受け入れていた。高校1年生や2年生の高校生も転校の対象となっている(なお、天門学院は中学校教師を買収し、中学生を学院へ送り込んでもらっているという噂がある)。
 湖北省出身者の生徒の場合、毎年、学費は3000元(約4万9500円)~5000元(約8万2500円)、他方、それ以外の省市出身者の場合には、7000元(約11万5500円)~1万元(約16万5000円)を学院に納めていた。
 ところが、生徒は3年間学んでも「無学籍」(在籍証明なし)・「無証明書」(卒業予定の証明無し)・「無戸籍」だった(生徒によって在籍年数が異なる)。
 つまり、天門学院が生徒達を騙していた。明らかな詐欺行為である。その結果、生徒らが「無学籍」・「無証明書」になった。だが、生徒らが「無戸籍」になるのは理解し難い。これはどういう事か。
 学院は、農村出身の生徒達に天門市への転籍を勧めていた。将来的に、農村戸籍よりも都市戸籍の方が有利だからである。多くの生徒らは学院の勧めに従い、天門市へ転籍しようとした。
 けれども、天門学院が、生徒の戸籍を出生地から天門市へ移す手続きをきちんと取らなかった。だから、一部の生徒がいつの間にか「無戸籍」となってしまったのである。
 実は、天門学院は全日制の公立を謳っているが、本当は、私立高校だという。その学院長や数名の副学院長は、中国共産党幹部だった。彼らが、こんないい加減な経営を行っていたとは驚きである。
 既述の如く、生徒達が正当な抗議デモを行うと、党幹部は警察や特別警察を投入し、デモを鎮圧した。一般市民らは、中国共産党の理不尽なやり方に批判的で、生徒らに同情している。
 確かに、事件当時、北京では両会(全国人民代表会議や政治協商会議)が開催されていた。習近平政権としては、会期が終了するまで、地方で大きな事件が起きて欲しくなかっただろう。
 特に、今年は1989年「6・4天安門事件」30周年に当たる。そして、今度の事件は、「天安門事件」後、初めて起きたデモであった。そのため、中国共産党はかなりピリピリしていることは間違いない。
 最後に、“こじつけ”だが、中国人にとって天門学院という名称は好ましくないかもしれない。「天安門」の「安」が無い。つまり、仏教用語でいう「三界“無安”」(どこにも安住できる場所がないという意味)なのである。たとえ、それが単なる偶然だとしても、北京としては忌み嫌うべき名前ではないか。
 ひょっとして、今回の事件が今後、全国に思わぬ波紋を及ぼす可能性がないとも言い切れないだろう。