澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -361-
中国報道に関する日本メディアの姿勢

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 我が国のメディアの基本的スタンスは(一部の対中強硬論を展開するメディアを除き)殆んどが“及び腰”と言えよう。
 それは、もしかすると、日中国交正常化後に取り交わされた「日中記者交換協定」(「日中両国政府間の記者交換に関する交換公文」)の存在と関係があるのかもしれない。
 実は、習近平政権が誕生して以来、中国経済がずっと右肩下がりで、経済成長に陰りが見えていた。しかし、多くの日本のメディアは、たとえそれを知っていても、知らない振りをしてきた。
 知っていても報道しないのは、メディアがスポンサーに気兼ねして中国報道を自己規制しているからではないか。
 一般に、そのスポンサーである大企業は、経済的に中国と深い関わりを持つ。そのため、大企業はメディアに中国に関する“負の情報”を流してもらいたくない。ビジネスに影響があるからである。
 従って、日本のメディアは、大企業の考えを“忖度”して、たとえ中国の景気が良くなくても、同国がデフレだとは報道できないのかもしれない。
 このように、我が国のメディアは、中国報道を“自主規制”してきたのではないだろうか。そして、北京政府の公表通りに報道してきた。これでは、まるで中国国営の通信社と同じである。真実を伝えないというのは、マスコミの使命を放棄していると言っても過言ではないだろう。
 しかし、メディアが中国の実態とは程遠い報道を行っているのは、彼らだけの責任ではない。その理由は、次の通りである。
 第1に、世界的機関である国際通貨基金(IMF)、世界銀行、或いは我が国の研究者やエコノミストが、中国経済が継続的に発展しているという“お墨付き”を与えて来た。
 前者は、自らが育てた中国を否定しにくかった。親が子供を庇う気持ちと同じである。
 後者は、中国共産党との距離が近い。場合によっては、カネを受け取っている、又は、貴重な情報を入手している等、北京から便宜が図られている可能性があるだろう(一部の人間は、中国共産党が仕掛けたハニートラップに陥り、北京の言いなりになっているのかもしれない)。
 第2に、日本のシンクタンクに所属する場合、親会社から中国経済失速の発表を止められている可能性を排除できない。
 問題は、こうした研究者やエコノミストが、公の場で発言している点にあるのではないか(但し、メディアも、その“偽の情報”を流す人間に手を貸している)。
 第3に、一部のエコノミストは、北京の公表する数字だけしか見ていない。
 元来、中国は“政治の国”、“政治優先の国”である。同国の政治や社会を含めて経済分析を行わなければ、真の姿を捉える事はできないだろう。
 しかし、今日、いよいよ中国経済の減速が白日の下に晒され、隠し切れない状況になった(実際、今年<2019年>3月5日、李克強首相が、全国人民代表大会の「政府活動報告」で経済的苦境を率直に認めている)。
 そこで、多くの日本のメディアは、中国不況の原因を、昨春から本格化した「米中貿易戦争」に求めたのである。
 他方、彼らは、今年の春節(旧正月)、中国人の“爆買い”が減少した事について、中国当局による「転売規制」が原因だと強調した。確かに、それも一因であるかもしれない。
 けれども、中国人の“爆買い”が減った本当の理由は、不景気で自由にカネを使えなくなったからである。
 さて、前述のように、ここ数年来、ずっと中国経済が停滞している。その主因は、習近平政権の国有企業重視政策にあった。
 習政権は、鄧小平の「改革・開放」(「民進国退」)を否定し、「国進民退」を推し進めた結果、現在の景気後退をもたらしたのである。
 では、北京は、なぜ国有企業を重視したのか。それは、中国共産党が直接企業を支配できるからである(つまり、政治を優先した)。
 国家による民間企業の「国有化」は、民間企業の活力を奪い、ひいては経済の停滞をもたらす。社会主義イデオロギーでは、経済発展を見込めないからである。
 それは、南米ベネズエラで起きている混乱現状を見れば、明らかではないか。チャベス大統領(当時)が社会主義政策を採って以来、同国経済はおかしくなっている。
 結局、社会に活力を与えるのは民間企業であり、決して国有企業ではない。