澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -369-
習政権を批判した中国有名大学教授の失職

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)3月、北京大学と並ぶ名門、清華大学法学部の許章潤教授が習近平政権を批判したため、失職へと追い込まれた。許教授は著名な学者なので、現時点では、逮捕されるまでには至っていない(ひょっとすると、近い将来、拘束される恐れもある)。
 昨2018年7月、許教授は習政権に対し「(主席の任期制廃止をふまえて)任期制を実行せよ」、「一定の私有財産を尊重せよ」「ある程度の市民生活の自由を認めよ」等と主張した。無論、失職覚悟の批判である。
 これまで、許章潤教授だけではなく、心ある教授らは習政権批判を行い、大学を去らざるを得なかった。
 習近平主席の登場後まもなく、大学で西洋的価値観(自由主義、民主主義等)を教えてはならないという通達が出された。まともな教授達ならば、このような「中国的価値観至上主義」(=「前近代的価値観」)を到底、受容できないだろう。学問は、自由な環境下でなければ、その発展は望めない。
 今回、「許章潤教授を復職させよ」と多くの知識人らが中国共産党からの弾圧覚悟で声を上げた。ここ1、2週間で清華大学の教師、学生、その他の大学からの200人以上の教員そして知識人が、許章潤支持を表明している。
 独裁体制下にあって、彼らのその勇気には感服する。場合によっては、刑務所送りになるかもしれないからである。
 一方、近頃、中国では重大な問題が発生した。学生が授業中に習政権批判を行う教授陣を当局に「告発」(中国語では「密告」)している。
 現代中国では、特に「文化大革命」当時、「告発」が奨励された。時には、子供が親を「反革命分子」として、当局に「告発」した。
 目下「文化小革命」(「文化大革命」をもじったもの)が進行する中、習近平政権は、人生経験の浅い学生達に“スパイ行為”を奨励している。
 例えば、重慶師範大学副教授(准教授)唐雲は、「魯迅研究」という授業を持っていた。今年2月、唐副教授がその授業の中で、国家に対し不適切な内容を語ったと学生に「告発」されている。翌3月、唐は教員資格を剥奪された。
 他方、河南省鄭州市62中学の15歳の男子学生(谷某)は、自習時間と昼食後に、友人がタブレットを使用しているのを「告発」しなかった。そこで、主任の先生が、男子学生に「告発書」を提出するよう強要した。結局、谷某はそれを拒否し、飛び降り自殺をしている。
 さて、習近平主席は、かつての大清帝国皇帝のような「万能感」を持っているふしがある。人間の力で何でもできると誤解しているのではないだろうか。政治でも経済でも人間の力が及ばない所があるのを全く理解していないようである。
 第1に、政治において、民主主義は「神の啓示」(山本七平)である(特に、選挙による首長決定)。
 習主席自身、たまたま「神輿は軽い方が良い」という理由で江沢民らに担がれたに過ぎない。そして、ついに主席まで登り詰めた。
 その後、習主席は、江沢民派に対し、「反腐敗運動」の名を借りて、同派を徹底的に叩いている。恩を仇で返した。
 仮に、今の中国が民主主義社会ならば、習主席は絶対トップにはなれなかっただろう。つまり、実力で成るべくしてなった主席ではない。
 このように、各レベルでまともな選挙を実施していない中国は、「神の啓示」を無視しているため、民意とは大きなズレが生じている。いつか必ずや国家崩壊をもたらすだろう。
 第2に、経済においては、個々人が勝手に利益を追求しても、市場は「神の見えざる手」(アダム・スミス)によって、ある程度、自然調整され、社会全体に利益をもたらす。
 ところが、中国共産党は、市場原理を殆んど無視している。そして、株式市場、為替市場、不動産市場に手を突っ込む。これでは、市場が歪み、上手く機能するはずはないだろう。現在、中国経済苦境の根源は、市場に人が過剰介入している点にある。
 先日、亡くなった毛沢東主席の元秘書、李鋭が、習主席の理解能力は「小学生レベル」と揶揄したのも当然かもしれない。
 今の中国は、「文化大革命」時と同じ、“暗黒時代”を迎えていると言っても過言ではないだろう。