「香港デモから透けて見える中共の無理筋政治」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 香港の2回のデモはすごかった。政府トップの林鄭月蛾行政長官が立法会(議会)に提出した「逃亡犯条例」改正問題に反対するデモは6月9日が103万人、2回目の16日は実に200万人が参加した。その結果、長官が条例改正案の審議を打ち切り、デモ側に陳謝したのである。辞任するといううわさも流れたが、今のところ、混乱を招いたことへの謝罪のみだ。
 事態がこのまま推移して、条例改正問題が立ち消えて、長官も習近平氏の地位もそのままということはないだろう。
 逃亡犯を相手国に引き渡すという条例改正は、香港の中国化を図るならいずれ不可欠の道具だ。立法会の与党は金持ちの中国派ばかり。改正条例には賛成のはず。また林鄭長官は習主席から〝任命〟された人物だから、条例改正の背後に習主席が存在していることも確かだろう。700万人の国民のうち、200万人が強烈な反対の意志を示している。蹴散らしを覚悟すれば香港が潰れるほどの混乱に陥り、二度と使用不能の都市になる。習氏と林鄭氏の重大な失敗だ。香港は1997年に英国から「1国2制度」の約束のもとに返還された。少なくとも50年間は現体制を続けると中国側は約束したはずだ。それでも民主体制は徐々に骨抜きにされた。立法会では、民主主義を説くような人物は、立候補も許可されない。2014年、民主化要求を掲げた雨傘運動がおこったが軽く鎮圧された。今回、条例改正が行われると1国2制度のぶち壊しに拍車がかかる。反対派は雨傘運動のひ弱さを反省し、デモ参加者を動員した。
 この教訓は今後に生かされるだろう。香港市民優位の状態が長引くと、事態は市民側優利に変わる。中国は国際圧力などものともせず、既定路線を邁進するはずだが、一方で、これは中国の孤立化につながるのではないか。
 習近平氏が急がなくても良いものに手を出した動機は何か。中国は2015年頃から、「中国製造2025」を揚げ、建国100年の2049年には軍事的に世界のトップに立つと公言。「製造25」は製造の分野で世界一を目指すもの。そのために知的財産を盗む、中国に進出した企業の秘密をも開示させるなど、ならず者的手法で、世界を飲み込む勢いだった。政権を強化するため、主席の任期も無制限となった。その我がもの顔の手法が、トランプ大統領の対中関税対策でへし折られた。ウイグルでの人権弾圧、国内での言論の統制強化などは明らかにやり過ぎだ。しかし中国共産党員8,900万人の団結によって、無理筋の政治がまかり通ってきた。
 しかしトランプ大統領の大胆な規律強化策で習氏は相当に追い詰められているようだ。インチキ手法が許されなくなって、中国は変わり始めた。工業生産は軒並み不振で、仏のカルフール、独のメトログが中国からの撤退を表明。自称6%台のGDPの伸び率は実は2、3%だという説もある。