澁谷司の「チャイナ・ウォッチ」382
G20米中首脳会談での意外な合意

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)6月28日・29日の両日、G20大阪サミット(日本が議長国)が開催された。約6000人の報道関係者が大阪に来たという。
 世界は固唾を飲んで米中首脳会談の行方を見守った。トランプ・習会談が決裂すれば、世界経済に大きく影響を及ぼしかねないからだった。意外にも、米中首脳会談で両首脳は一部合意したのである。
 6月27日、トランプ大統領と習近平国家主席が来日したが、同夜、米中間で晩餐会が開かれた。習近平主席としては、面子にかけても、29日の米中首脳会談で決裂する訳にはいかなかった。
 そうでなくても、中国経済は瀕死の状態に陥っている(その最大の原因は、習政権が「サプライサイド経済」を掲げながら、真逆の国有企業重視政策にあるだろう)。
 習近平政権としては、トランプ政権から、ほとんどの中国製品に高関税をかけられれば、更に中国の景気は悪化する。共産党内からの突き上げで、習近平主席自らの地位もかなり危うくなるだろう。
 そこで、習主席は、トランプ大統領に少しでも譲歩してもらうためか、「北朝鮮カード」も切っている。
 では、なぜトランプ大統領は今回(中国側が米農業品を大量に輸入するのと引き換えに)対中国製品への高関税措置を延期したのか。また、米企業がファーウェイ(華為技術)への部品売却を認めるなど、中国側に譲歩したのだろうか。
 「プロジェクト2049研究所(Project2049 Institute)」の研究員、イアン・イーストン(Ian Easton)に拠れば、次の3つの理由からだという。
 第1は、もしトランプ大統領が、直ちに中国に対し高関税をかければ、中国で活動している米企業が、すぐには中国から脱出できないので、不都合が生じる。米企業の脱出には、ある程度の時間が必要である。
 第2に、トランプ大統領は、2020年秋の米大統領選で再戦を目指している。そのため、米中首脳会談が決裂した場合、米国の経済的損失も大きいので、再戦に影響が出るだろう。
 第3に、米中貿易交渉を梃子にして、トランプ大統領は、現在ストップしている米朝関係を動かしたいという思惑があったのではないか。
 これらの事情から、トランプ大統領は、対中追加関税等の厳しい措置を控えたと思われる。
 そして、6月29日、トランプ大統領は、お得意のツイッターで、北朝鮮の金正恩委員長に呼び出かけた。これから自分は訪韓するので、可能ならば、板門店の軍事境界線の非武装地帯(DMZ)で会おうという内容である。
 周知の如く、今年2月末、米朝首脳会談は、ベトナム・ハノイで開催されたが、失敗に終わっている。この度ばかりは、金委員長も、トランプ流のツイッターによる首脳会議提案には驚いたに違いない。
 翌30日、金正恩委員長はその呼びかけに応じて、トランプ大統領とDMZで面会したのである。このサプライズのお膳立てをしたのが、(韓国の文在寅大統領ではなく)習近平主席だった事は疑いもない。
 実は、G20の前、6月5~7日の日程で、習近平主席はロシアを訪問した。だが、習主席は、宇宙分野での協力等で600億元(約8400億円)の手土産を持参しプーチン大統領と会った。しかし、ほとんど成果を得られなかった。習近平政権としては、米国に中ロの緊密化をアピールしたかったのかもしれない。
 習近平主席は、中ロ会談が不発に終わったので、取り巻き連中にも相談せず、同月20日・21日、彭麗媛夫人を同伴して訪朝した。
 習主席は、G20でトランプ大統領から何らかの譲歩を引き出すため「北朝鮮カード」を手中に収めようとしたのである。
 G20直後、板門店で、米朝首脳会談が行われ、凍結状態の米朝協議が再開される事になった。習主席としては「してやったり」ではないか。だが、今後の米朝交渉次第では、習近平主席の思惑通りにならないかもしれない。
 一方、中国としては、「米中貿易戦争」の最中、世界第3位の経済大国である日本とも関係を緊密にしたいところだろう。
 そのため、G20で習近平政権は、日本の参議院選挙前、安倍政権の面子を潰さないように努めたと思われる。つまり、(1)米中首脳会談を絶対に決裂させない、(2)米朝首脳会談を実現させる事を目指したのではないだろうか。