澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -110-
安倍政権は「J型中国包囲網」を目指す?

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年4月26日、オーストラリアのターンブル首相が、フランス製潜水艦12隻を購入(約4兆円)すると発表した。フランスが売込みの競争相手だった日本とドイツに勝利している。
 安倍晋三首相は、オーストラリアのアボット前首相との関係が良好だった。当時、豪州はコリンズ級潜水艦の代替として、日豪での潜水艦開発を模索していたのである。日本の「そうりゅう型」(三菱重工業)は性能が良く、オーストラリアと同盟関係にある米国も日本の豪州への売込みを後押ししていた。
 ところが、昨2015年9月、自由党のアボットが首相を辞任し、同じ党のターンブルが首相に就任した。このターンブル首相は、(アボットの前任者である)労働党のラッド元首相と同じ「親中派」だった。
 思い起こせば、2012年12月、第2次安倍政権は「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を掲げて登場した。日本、米ハワイ、オーストラリア、インドを結び、自由・民主主義国家で中国の“拡大”を牽制する。
 中国共産党としては、当然、その「セキュリティ・ダイヤモンド」の1番弱い部分を突いてくるだろう。それがオーストラリアだった。同国は、対中貿易依存度が大きいからである。
 JETROによれば、2014年、豪州の輸出相手国として、中国は全体の33.6%を占める。また、同国の輸入相手国としても、中国は20.6%とトップである。
 当然、習近平政権が、オーストラリアに対し経済で「セキュリティ・ダイヤモンド」を揺さぶってくるのは、目に見えていた。以上のように、安倍政権の「セキュリティ・ダイヤモンド」構想は、うまく機能しているとは言い難い。
 今般の日・仏・独によるオーストラリアへの潜水艦受注合戦は、結果的にフランスが勝利した。だが、一方では、日本の技術が共同開発によって豪州へ流出せず、かえって良かったとの見方もある。

 さて、日中のせめぎ合いの中心は、何と言っても、東シナ海と南シナ海である。よく知られているように、北京は日本・沖縄・台湾・フィリピン、および東マレーシア(ボルネオ島)を結ぶ「C型包囲網」(「第1列島線」)で中国大陸が封鎖されていると思っている。いかに、中国海軍はその包囲網を打ち破るかに心血を注いでいる観がある。
 もちろん、中国共産党は、その環の比較的弱い部分を狙ってくるだろう。それが沖縄と台湾だった。
 だが、今年5月20日、台湾には、民進党の蔡英文次期政権が誕生する。「親中派」の馬英九現政権(国民党)とは違って、蔡政権は日本とより強い関係を築くだろう。
 現時点では、「C型包囲網」中、沖縄が習近平政権のターゲットになっている。翁長雄志県知事は、明らかに中国共産党と深い関わりを持つ。また、沖縄の一部世論は自公政権に対して厳しい。将来、もし沖縄県が日本政府とスクラムを組めるようならば「C型包囲網」は磐石となるだろう。

 そこで、今後は「C型包囲網」を拡げ、ASEANの国々を含め「J型中国包囲網」を完成させたらどうだろうか。
 つまり、日本・沖縄・台湾・フィリピン、東マレーシア(ボルネオ島の一部、サバ・サラワク州)・インドネシア・西マレーシア(マレー半島)・ベトナムで構成する。実際、安倍政権は、それを目指しているむきがある。
 まず、今年2月中旬、海上自衛隊のP3C哨戒機2機が、アフリカ東部ソマリア沖アデン湾での任務を終えて帰国する途中、ベトナム中部ダナンに寄航した(16日~18日までの3日間)。そして、ベトナム海軍と合同で洋上捜索訓練などを実施している。
 次に、翌3月29日(「新安全保障関連法案」施行日)、早速、海上自衛隊の潜水艦「おやしお」1隻と護衛艦「ありあけ」「せとぎり」2隻がフィリピン・ルソン島のスービック湾へ寄港した。
 そして、4月12日、その護衛艦「ありあけ」「せとぎり」は、ベトナム中南部の要衝であるカムラン湾へ寄港している。
 さらに、同日、日本政府はインドネシア・パダン沖で実施された「インドネシア海軍国際観艦式」に海上自衛隊の大型ヘリコプター搭載護衛艦「いせ」を派遣した。また、同月26日、その護衛艦「いせ」はスービック湾へ寄港している。
 明らかに、安倍政権は中国軍に対する“牽制”のため、海自を南シナ海に展開しているに違いない。

 他方、中国共産党は、ASEANの分断を図ろうとしているふしがある。北京は経済援助等でラオス・カンボジアを取り込んでいるが、ブルネイも取り込んでいる。
 しかし、「J型中国包囲網」が完成すれば、中国軍の南シナ海での“膨張”(人工島での滑走路建設やミサイル配備等)を食い止めることができるのではないだろうか。