澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -384-
中国三峡ダムはまもなく決壊するのか?

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政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 近頃、中国湖北省宜昌市にある三峡ダムが“湾曲”したと指摘されている。確かに、グーグルアース(Google Earth)で2018年に撮影された映像では、ダム下流の方に若干の“しなり”が生じているように見える。だが、普通、ダムが“湾曲”するとは考えづらい。
 今年(2019年)7月4日、北京政府は、中国航天科技集団有限公司(China Aerospace Science and Technology Corporation)が直近に撮影したとされる三峡ダムの航空写真を公表した。そして、同ダムには“歪み”はないと噂を否定したのである。
 しかし、わずか2日後、北京はダムの“湾曲”を認めた。そして、その“歪み”は設計の予測範囲内だとし、同ダムには“弾力性”があると開き直った。
 ダムはコンクリートで作られている。常識的に、“弾力性”などあるはずがない。苦しい言い訳で真相を覆い隠そうとしている。
 その2週間後、7月20日、習近平政権は、グーグルアースの映像がおかしいのであって、三峡ダムには、ほどんど“歪み”はないと、再び“湾曲”を否定した。
 以上のように、中国共産党の二転三転する言動を、一体、誰が信じられるだろうか。
 仮に、ダムが決壊したとすれば、何十万、何百万の人命が失われ、何百万、何千万もの人々が被害に遭うに違いない。一刻も早く三峡ダムの補修工事を行わなければ、手遅れになる。
 習政権は「一帯一路」等にカネを注ぎ込んでいる場合ではない。北京政府は、「国民の生命と財産を守る」という国家の最重要課題を完全に放棄しているのではないか。北京はかかる危機的状況にあっても、相変わらず党内闘争に明け暮れている。
 周知の如く、三峡ダムは、揚子江(長江)の四川省重慶市と湖北省武漢市のほぼ中間に位置する。同ダムは、中国がその威信にかけ国家プロジェクトとして造成した。
 このダムを造るにあたり、100万人以上が強制的に立ち退きさせられ、一部の人々は難民化したという。また、名所名跡が水没している。
 堤高は181メートル、長さは2335メートル、頂上の幅は40メートル、基礎地盤の幅は115メートルある。ダムの洪水吐(余水吐)量は毎秒11万6000 平方メートルで、水力発電量としては、電力設置容量210億ワットと世界最大である。
 三峡ダムは、1993年に着工し、2003年から発電を行っている。そして、2009年に完成した。ダムは、水力発電、貯水量調整、船の運搬等を担っている。
 2003年、国営新華社は「三峡ダムは、1万年に1度の大洪水にも耐える」と豪語していた。07年5月になると、同社は「ダムは1000年に1度の大洪水にも耐える」と変えた。翌08年10月、同社は「ダムは100年に1度大洪水にも耐える」とトーンが落ちた。
 更に、2010年7月、中国中央電視台(CCTV)は、専門家の意見として、「三峡ダムの治水能力は限られていて、ダムに全面的には期待しないように」と断っている。
 現在、ダム完成後、わずか10年しか経過していない。それにもかかわらず、すでにダムの一部に亀裂が走っている。手抜き工事が行われた公算が大きい。
 ダム会社(中国長江三峡集団公司の子会社、中国長江電力股份有限公司<株式会社> )は、上流から流れて来る浮遊物(ゴミや家具など)にも悩まされている。それらは取っても、取り切れない。そのため、浮遊物が腐って、沈殿物としてダムの底に溜まり続けている。
 2年前、ジャーナリストの譚璐美が喝破したように、近年の研究によれば、中国での地震発生原因の一つは「三峡ダム」の巨大な水圧の可能性があるという。
 ダム貯水池に貯めた水圧で、地面から地下に沁みこんだ水が断層に達する。そのため、断層がずれやすくなり、地震が多発するようになった可能性がある。
 実は、以前から三峡ダムには黒い噂が流れていた。総工費は1800億元(約2兆5200億円)である。建設プロジェクトの費用は、人民からの特別税で賄われていた。2014年、中央規律検査委員会の報告によれば、「一部幹部の親戚や友人が建設プロジェクトに干渉し、ある入札は秘密裏に実施され、一部幹部は複数のアパートを不正に占有していた」という。
 その幹部とは、李鵬元首相一族を指すのではないか。以前から、李鵬一族が私腹を肥やしているとの噂が絶えなかった。
 中国共産党は人民からカネを搾取した上、その果てに、人民の生命をも危険に晒している。