澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -385-
山東大学の留学生に対する「学友」制度

.

政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2019年)7月初旬、中国の山東大学で行われていた驚くべき事実が明るみに出た。ネットユーザーが、「学友」制度をSNSで暴露したのである。
 同大学では、男子留学生1人に対し、中国人女子学生3人を「学友」として“アテンド”する制度を導入した。
 国内の学生ならば、「学友」など不要である。男女共にお互いすぐに(異性を含め)友人ができるからである。
 ところが、留学生は語学の壁もあって、中国で友人を作るのは容易ではない。そこで、大学が留学生のために中国人の「学友」を振り分けた。そこまでは、大学の配慮は評価できる。
 しかし、なぜ大学が男子留学生1人に対し、3人もの中国人女子大生を「学友」としてつけるのか。「学友」とは聞こえは良いが、実は、男子留学生に3名の“女友達”をつける制度だった。今、これが物議を醸している。
 その逆のパターン、すなわち女子留学生に対し、中国人男性3人をつけるという話は聞かない。あくまでも、男子留学生のみへの特別待遇である。
 また、その特別待遇は、主に中東系やアフリカ系の男子留学生に限られているという。同じ留学生でも、欧米系や東アジア系(日本人、韓国人、台湾人、香港人等)の男子留学生には、この制度が適用されたという話は伝わって来ない。
 当然、この制度下では、男子留学生と中国人女子大生が容易に仲良くなるだろう。飲み会等で親しくなり、2、3ヶ月後に、複数の女子大生が妊娠し、堕胎したと報告されている。
 他方、ある飲み会では、飲酒を断る女子大生が酒を強制され、拒否した女子大生が、公衆の面前で、男子留学生から平手打ちされた事例もある。
 さて、「学友」として大学側から選抜された女子大生は、比較的スタイルが良く、裕福でない家庭の出身者が多いという。女子大生が裕福な家庭の出身者ではないという事は、山東大学が彼女達に奨学金等を与え、留学生の「学友」になってもらうのだろうか。
 一部の華人系マスメディアは、これを現代の「慰安婦」制度と厳しく非難している。そのため、7月12日、山東大学は「学友」制度実施を謝罪した(ちなみに、南京大学、中山大学、ハルピン工業大学等も、山東大学と同じ制度を採っていた)。
 この山東大学は山東省の省都、済南市にある。1901年、中国(当時は清国)で2番目に創立された中国名門大学の一つである(1898年、北京大学が清国で1番早く設立された)。
 2001年、山東大学は、中国教育部によって21校の国内主要第1級大学のうちの1校に選ばれた。
 同大学は、哲学、経済学、法学、教育学、文学、歴史学、理学、工学、農学、医学、管理学、芸術学等12のコースで構成されている。
 総生徒数はおよそ6万人で、全日制本科生が40789人、大学院生18816人、留学生3791人である(同大学HP)。若干データが古いが、2012年の「中国大学ランキング」(山東省高等教育評估所版)で、山東大学は、第11位にランクされている。
 問題は、なぜ名門、山東大学がこのような制度を採用したのかだろう。無論、山東大学といえども、中国共産党の管理下にある。同党としては、中国人女子大生を中東系・アフリカ系の留学生と仲良くさせるつもりなのか。
 実際、中国政府は、留学生のための待遇優遇を行っている。例えば、(1)入試を免除する、(2)豪華な宿舎に住まわせる、(3)高額の奨学金(学部生で59200元<約93万5360円>、博士課程の学生ならば、99800元(約158万6840円>)を与える、等である。なお、地方政府や大学にも奨学金制度がある。
 特に、習近平政権は、中国と「一帯一路」で結ばれている中東・アフリカからの留学生をできるだけ多く採用するようにしているという。彼らのために「シルクロード奨学金」も設けている。
 結局、中国共産党は「一帯一路」構想を実り多くするため、女子大生を利用したと言えるのではないだろうか。そのための措置として、上記制度が考案された公算が大きい。
 あるいは、同党は、ひょっとして、女子大生が男子留学生の子供を産み、世界中に中華系の血統を増やすという、遠大な目標を抱いているのだろうか。
 しかし、よく知られているように、中国国内では、同い年の男子に比べて、女子が圧倒的に少ない。
 2015年時点での出生時男女比は、女児100人に対して男児113.51人である。そのため、男余り現象が著しく、3000万以上の男性が結婚できない。中国で、若い女性は貴重な存在である。彼女達が留学生に嫁げば、男余りは益々深刻な事態に陥るだろう。