澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -392-
中国人の「海外での愛国主義」の発露

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 目下、中国人の「海外での愛国主義」(仮訳。中国語では「離岸愛国主義」。「オフショア・ナショナリズム」)が跋扈している。
 例えば、今年(2019年)8月、オーストラリア・シドニーで、香港の「逃亡犯条例」改正反対運動(「反送中」運動)を支持する「反中派」デモが行われている。
 それに対し、同月17日、香港政府(そのバックには中国政府が控える)を支持する「親中派」デモが行われた。これがいわゆる「海外での愛国主義」である。そして、現在、シドニーでは、両者の対立が深まり、緊張が高まっているという。
 同日、英国・ロンドンでも香港の「反送中」運動を支持するデモが行われた。それに対し、やはり「海外での愛国主義」に駆られた中国人が「反送中」デモに対抗(=反「反送中」デモ)している。
 8月17日、日本でも同様な事件が起きている。
 在日香港人を中心に、「反送中」運動支持者300人以上の人達が千鳥ヶ淵周辺に集まった。
 『NEWSポストセブン』の記事によれば、そこに「親中派」のオープンカーがやって来た。そして、大音量で中国国歌を流し始めたのである。「海外での愛国主義」に駆られた40人ほどの中国人による抗議活動が始まった。だが、日本の公安に注意を受け、今度はアカペラで中国国歌を歌っている。
 「反送中」運動支持のデモ隊が動き始めると、反「反送中」デモを展開する中国人たちは香港人を罵り始めた。けれども、香港人は広東語を話し、中国人は北京語を話す。そのため、お互い罵り合っても通じない。
 そこで、両者は日本語で罵り合う事になったという。更に、中国人達は、中国国旗(五星紅旗)を掲げ「反送中」運動支持のデモ隊と一触即発の状態になった。
 その後、「反送中」デモ隊は、香港経済貿易代表部(千代田区)前で、香港警察によるデモ隊への暴力行為について抗議文を読み上げ、活動は終了した。
 さて、この中国人の「海外での愛国主義」が厄介なところは、しばしば“暴走”する点にあるのではないか。いわゆる「愛国無罪」である。愛国的な行動は、何をしても許されるという論理がまかり通る。
 中国国内はともかく、国外でも「愛国無罪」で中国人が暴れたら、外国では厳しく取り締まられるだろう。
 実際、8月23日(現地時間)、SNSでアップされ、ある事件が発覚した。南米チリで、香港の「反送中」運動デモを支持した台湾料理レストランが現地の中国人に荒らされる騒ぎがあった。
 複数の中国人が店に乱入し、店内に五星紅旗を掲げた。そして、店のシャッターにはペンキがまかれた。
 台湾の駐チリ代表処(大使館に相当)が23日(現地時間)に、同レストランを運営する台湾企業に連絡を取り、騒動の詳細について話を聞いた。今後は警察への通報や法律に関するサポートなどを通じ、同企業を支援する方針だという。
 他方、台湾外交部(外務省)の欧江安報道官は24日夜、これらの行為について「唾棄されるべき」だとして強く非難している。
 我が国でも、この中国人による「海外での愛国主義」が発露した“事件”があった。その有名な例として、2008年北京五輪の聖火リレーが挙げられるだろう。
 同年4月、長野市内で聖火リレーが行われたが、その際、五星紅旗を持った中国人らが約4000人集まっている。そのため、リレーが行われる沿道が彼らに埋め尽くされた。
 実際、中国大使館がこの動員を支援していた。そして、留学生への参加注意とマニュアル、中国国旗などが配布されている。それだけでなく、中国のイメージを保つよう細かい注意や警察官への対応、集団行動に関する方法等も示されていたという。
 ところで、問題は中国人の愛国主義の発露が、海外でだけ見られる点である。中国国内では「反日運動」のような特殊な時期以外、なぜ愛国主義の発露が見られないのか。
 今般、香港の「反送中」運動に対抗して、中国国内で反「反送中」運動が起きてもおかしくはないだろう。しかし、寡聞にして知らない。
 おそらく、それは中国政府が、国内で愛国主義を煽ると、かえって、その愛国主義が中国共産党に向かう公算があるからではないか。
 国内において中国人の愛国主義は、中国共産党のコントロール下になければならないのだろう。結局、中国共産党にとって愛国主義は“諸刃の剣”と言っても過言ではない。