テレビの非常識な言葉遣いにいらつく日々

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 テレビを観るのは大好きなのだが、我慢出来ない言葉遣いが多すぎる。
 その一つが、旅番組や食べ歩き番組などでタレントが見ず知らずの人に対していきなり「お父さん」「お母さん」とか、「おじいちゃん」「おばあちゃん」などと声を掛けることだ。
 赤の他人にいきなり「おじいちゃん」とか、「お父さん」とか呼ばれれば、私なら不愉快になるだけだ。「私はあんたの父親でも、祖父でもないよ」と言いたくなる。
 ところが先日、実際にあったのだ。S新聞の販売店の店長が、購読延長の依頼に訪れた際、私のことを「お父さん」と呼んだのだ。こんな呼ばれ方をしたのは、初めてだった。実に不愉快であり、背中に虫唾(むしず)が走った。購読延長の依頼を断ろうかと思ったほどだ。敢えてS新聞と書いたが何新聞かすぐに分かるだろう。
 呼ぶ方の意図は分かっている。親しみを込めたつもりなのだ。だがそれは大きな錯覚であり、思い上がりである。「私はタレントで有名人だから、『お父さん、お母さん』と呼ばれれば、みんな喜ぶはずだ」とでも思っているのだろう。上から目線なのである。相手が大会社の社長や大学教授だと分かっていたなら、初対面でいきなり「お父さん」「おじいちゃん」とは呼ばないだろう。
 若いタレントの食レポにもイラつく。蕎麦、うどん、ラーメンなどの麺類を食べた際、漏らす感想が殆ど同じなのだ。「腰がありますね」、これだけだ。麺類は腰があれば良いと思っているのだ。ボソボソは駄目だが、麺類の命は喉越しである。
 以前、蕎麦が有名な深大寺で蕎麦を食したとき、店主に「やはりここの蕎麦は違うのですか」と尋ねたところ、「蕎麦は普通ですよ。大事なのはつゆです」という答えが返ってきた。その通りだと思った。よく蕎麦の名店で「まずそのまま食べて下さい」というところがある。おかしな話しだ。だったら最初からつゆなしで出せば良い。
 江戸っ子の蕎麦の食べ方は、つゆを少しだけ付けるのが粋だと言われている。だが人間国宝だった先代の柳家小さんは「たっぷり付けたが美味いに決まっている」と言ったそうだ。
 肉や魚を食べると決まって「脂が乗っていますね」と言うのも食レポの決まり文句だ。鯖の有名ブランドに「関サバ」というのがある。大分市の佐賀関で水揚げされることから「関サバ」と呼ばれている。昔から「サバの生き腐れ」と言われてきたように、食あたりが発生しやすいので、酢で締めるか、煮るか、焼くかで食べられてきた。だがこの関サバは、生のまま刺身で食べることが出来るのだ。まさに絶品である。
 確かNHKだったと記憶しているが、夏場に大分で関サバの刺身を食べる場面が映し出され、若い女性タレントが「脂が凄く乗っていますね」と感想を述べたところ、大分の漁業関係者が瞬時に、「いえ、今の時期は、脂はあまり乗っていません」と返答したのだ。笑ってしまった。
 テレビは演出の度が過ぎる。