第100回
「蔡英文政権の一年と今後の課題」

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  長野禮子 

 台湾は2016年5月20日、それまで8年間、一貫して親中路線を進め、政権末期には1949年の中台分断後初の「両岸の指導者」同士として、中国の習近平主席と歴史的な首脳会談を実現した国民党・馬英九政権から、民進党・蔡英文政権に交代した。そしてそろそろ一年が経つ。
 日本は日台が共有する歴史的経緯や、地政学的安全保障の上からも最重要地域であり、謂わば「運命共同体」としての認識の下、72年の断交以降も深い交流が続いている。「一つの中国」を唱える中国と一線を画す蔡政権の誕生は、同時に我々日本国民にとって政治的にも心情的にも歓迎するものであった。
 しかし、親中路線を加速し続けた馬政権の政治的経済的残滓はそこかしこにあり、蔡総統の政権運営は決して容易ではないようだ。トランプ米大統領は就任直後、中国の習主席に先立ち蔡総統との電話会談を実現した。が、米国は「台湾は中国の一部ではないが、国際社会での主権国家としての立場は認めない」との位置付けである。また、「中華人民共和国」は“チャイナ”、「中華民国」は“チャイニーズ”と実に紛らわしく、中国と中華民国との線引きが出来ていない。2007年、当時の陳水扁総統は国連の潘基文国連事務総長(当時)に「台湾」名での国連加盟を求める親書を送ったが、「台湾は中国の一部」との理由でこれを受け入れなかった。1971年、国連は「台湾は中国の一部」であるとの決議はしていない。 
 一方、台湾政府も「中華民国」と「台湾」のどちらかという明確な立場を主張していない。台湾はこれまで一刻たりとも中国共産党の支配を受けたことはないのだが、これも謂わば「台湾の悲哀」の一面なのか。 
 国民党、民進党と政権交代しても中台関係は時には微妙に、時には激しい緊張関係を伴いながら現在に至る。しかし実態としては「台湾=事実上の国家」として生き続けていると許氏は語る。台湾人としてのアイデンティティを確立した今、未だ独立国家としての主権を有することが許されない現実は、実に哀しい。国際社会の理解を得るための具体的努力を、我々日本人が躊躇わずに堂々と進める時代はいつ来るのだろうか。

講 師: 許 世楷 氏(JFSS特別顧問・元台北駐日經濟文化代表處代表)
日 時: 平成29年4月12日(水)14:00~17:00