書評:筆坂秀世著『日本共産党と中韓』

元法務大臣 長勢 甚遠

  
 著者は、昭和23年生まれで、18歳で日本共産党に入党、三和銀行を25歳で退社し専従活動家となり、参議院議員、日本共産党ナンバー4である政策委員長を務めていたが、平成17年離党、という経歴の持ち主である。現在は多数の著書出版、テレビ出演などで活躍されている。名前を御存じの方もおられると思う。
 私とはこれまで面識はなかったが、親友が同氏と深い付き合いがあったことから、最近お会いすることができた。なかなか爽やかな純粋な真摯な人物だと大いに好感を持った。
 余談だが、おかしなことに、私は共産党議員とは話しやすかった。お互いにまるで真逆の思想であったが、共産党議員には真剣に人生に取り組む姿勢が感じられ、生で話しができる安心があった。純粋に何かを求めているという共通のものを感じることがあった。つまりいい人だということである。思想、主張が同じでも自民党議員には出世、金銭、人気に関心の強い者が多く、好きになれない者が多かった。民主党議員には共産党議員に感じるようなものを感じることは少なかった。共産党議員は党内ではどうなっているのかはわからないが、私と話すときには出世、金銭、人気と関係なく純粋な自分になっていたのかもしれない。最近地方議員などで共産党議員の増加がみられるが、これは共産党議員には他党とは違い、いい人が多いことによるものではなかろうかと思う。世の中が安定すると選挙民はいい人を選びやすくなり、社会が不安定になると選挙民は共産党の主張のおかしさを敬遠することになろう。共産党は自共対決の時代が来たというが、そんなことではない。変な言い方だが共産党の基盤はその思想にあるのではなく、間違った思想を信ずる活動家がいい人であることにあるのではなかろうか。
 著者の筆坂氏もそんないい人であるに違いない。いい人であるだけに共産党の間違いに気づいたとき悩まれたのではなかろうか。それが極に達した時、いい人だからこそ離党の挙に出られたものと推測する。本書の副題は「左から右に大転換してわかったこと」となっているが、そこに筆坂氏の真剣な迫力を感ずる。
 本書は、主として日本に関する近代史について、敗戦後我々が教えられ信じ込まされたことの欺瞞を白日にさらすものである。読まれた人はそうだったのかと目からウロコが落ちる思いをされることだろう。何故日本は戦争に追い込まれたのか、コミンテルン、アメリカの対日政策はどんなものだったのか、中国共産党は日本に何をしてきたのか、朝鮮の日本に対する恨みとは何なのか、東京裁判は正しかったのか、などなど日本は侵略国家としてシナ、朝鮮はじめ東南アジア諸国に多大の被害を与えた悪い国という敗戦後の日本を覆っている一連の誤謬を余すところなく論破し、真実をわかりやすく明快に示している。
 本書が述べている真実は今までも多くの著作で明らかにされてきたことである。東京裁判の欺瞞、コミンテルンの策略、毛沢東の残虐、アメリカの侵略政策、日本を再び立ち上がらせないためのアメリカの占領政策、そのための憲法押しつけ、占領政策に迎合した売国日本人。これらに関する著作のいくつかは読んだことがあり、本書に述べられている事項の多くは既に知っている。
 しかし、真実を聞いたことがない人が余りにも多く、それどころか真実とまったく違う偽造され、ねつ造された事実とそれに基づく間違った分析、解釈を信じている人がいまだに多いことは慨嘆に堪えない。本書はその蒙を開く大きな役割を果たすことになろう。
 従来のこの種の著作はややもすると例えば東京裁判とか、コミンテルンの謀略とかについて個別に論じられていた憾みがある。無関係に見えるこれらのことは一連のものであり、そういう分析があってこそ正しい歴史観を持つことができる。本書の意義は個別の事実を一連のものとして分析していることにあると思う。現在起こっている政治、外交の諸問題もこれまでのことと不可分につながっているものであり、本書はそのことをわかりやすくわからせてくれる。そこから正しい見方が生まれる。
 著者は長い期間共産党員として真剣に活動し離党したと言う稀有の人物である。まさに本書を書くにふさわしい得難い人物である。日本共産党のいかがわしさを体験したからこそ、日本共産党批判という一つの視点から明治以来の日本の在り様を俯瞰できるのだと思う。また、一般に知られていない日本共産党の内部議論、活動の真相に直接かかわっていた著者の記述であればこそ、真実として読む者を納得させ、いかなる反論も許さない力を持っている。何よりも日本共産党、中国共産党、ソ連、アメリカに対する心底から発する憤怒が行間に満ち溢れ、私を圧倒し感動させた。
 本書が広く読まれ、国民に浸透している暗雲を払い、現在および将来の日本の政治、外交を正しく考える指針となることを期待したい。本書がそういう使命を担うものである以上、現在の日本を支配している勢力が本書の存在を隠蔽し抹殺することに狂奔するであろうことは想像に難くない。現実にこの種の著作は言論、報道、関係学会から無視され、出版社、書籍販売会社から忌避されてきたことが多いのである。皆様にはお知り合いに本書をお勧め頂くことを切にお願いする。

 筆坂氏のことをまだ深く知っているわけではないが、本書を読んで同氏のことを知りたいという強い意欲がわいている。同氏とは全く違う人生を歩んできただけに、いろんな議論をすることを楽しみにしている。





    
  著 者: 筆坂 秀世
  ワニブックス
  発行日: 2015年6月8日
  定 価: 830円(税別)

  
 

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