民主・維新合併
―数ではなく、信頼できる外交・防衛政策を示せ―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 民主党と維新が合併することになった。民主党が政権を維持できなくなった原因に目を閉じて、両党が合併しても政権陥落時の状態から勢力挽回とまではいかないと知るべきだ。維持できなくなった原因の最たるものは外交・安全保障政策に対する不信感だ。
 もともと民主党は非武装・中立政策でいいとか平和は憲法9条さえあればいいという旧社会党系を吸収して大きくなった。党内には前原誠司、細野豪志、長島昭久氏ら保守派もいる。外交・防衛政策を一本化しようとすると党が割れるから、左と右の二本立てで政権を獲った。鳩山由紀夫氏は米国に、日米間の最大の懸案である普天間飛行場の辺野古への移転について「任せておけ」と言ったかと思えば「少なくとも県外へ移転する」と主張して、米国の不信を招いた。オバマ大統領は鳩山首相と昼食さえ一緒にとるのを拒んだ。一方で中国は尖閣を見張る巡視船に漁船が体当たりしたが、日本政府はその事実を隠蔽した。中国は「尖閣は固有の領土」とか「核心的利益」と公然と言い出した。日米安保に守られているのに「9条のおかげで安泰だ」などと錯覚していた国民は覚醒した。
 野田政権で行われた総選挙で、民主党は50議席台にとどまり、安倍政権で行われた14年の総選挙でも70台にとどまった。5%台に落ちた政党支持率は未だに10%そこそこ。こういう状態を“人気がハゲる”というのだろう。かつてカナダの与党(169議席)だった進歩保守党は93年の選挙でわずか2議席に落ちた。その後、議席は回復せず、結局カナダ同盟と合併し、漸く政権に返り咲いた。
 民主、維新の合併はカナダの進歩保守党のように返り咲きを期待できそうもない。陥落の元となった外交・防衛政策が惨敗時と全く同じレベルだからだ。
 岡田克也代表は共産党をも含めたオール野党で立ち向かえば、「何とかなる」と思っていたようだ。しかし政策の肝心要の防衛政策についての見解がはっきりしない限り、飛躍はないと知るべきだろう。共産党が応援するとすれば民主支持の保守派が逃げ出すリスクが高い。人気がはげた店は新装開店するのが一番で、維新の江田憲司氏は新しい政党に相応しい重い名をつけるべきだという。前原氏らが当初「解党」を言い出したのも、同じ認識からだろう。枝野幸男氏は連合に近いせいか「民主」の名前を残したいようだ。
 南シナ海では中国が岩礁を埋め立て軍事基地化しつつある。尖閣についても中国の「核心的利益」を一層声高に言うようになった。尖閣について譲歩すれば「次は沖縄だ」といってくるだろう。アジアのほぼ全諸国が懸念を示している時に日本だけが「安心しろ」といえる材料はない。9条だけでは平和は守れないこともはっきりした。民・維合併によって政権を目指せる政党を作ろうと思うなら、まず9条を克服するのが最低条件ではないか。政権をとるには外交・防衛で前政権と大きな段差をつけてはならない。


(平成28年3月2日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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