中朝脅威に備える究極の抑止力
―エア・ボン・レーザー開発を急げ―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 北朝鮮が3月19日に日本海にノドンを発射した。一発目は800メートル飛んで日本海に落下したが、もう一発は上昇後に航跡が消えた。北朝鮮は2月にも人工衛星と称してミサイルを打ち上げた。また21日にも5発のロケットを発射した。国連の制裁決議など全く無視して傍若無人だ。制裁が響かない裏の事情があるのだろう。ロシアから重油を密輸しているとも、中国の制裁が弱いとも言われている。中国は北朝鮮の体制が潰れて、米国と結んだ韓国の統一となれば、間接に米国と国境を接したことになる。この事態を避けるためには北朝鮮が潰れては困る。ロシアもこの一帯の均衡が壊れることを欲しない。
 一方で中国の覇権主義も止まらない。南シナ海は最早中国の領海になったかの如くである。尖閣についても公然と「中国固有の領土」「核心的利益」と言い出している。いつ占領されてもおかくない状態だが、その場合日本は必ず領土を取り返さなければならない。取り返さなければ「沖縄も中国の核心的利益」と言い出すだろう。何しろ中国の悲願は太平洋の半分を占拠することである。米国は、尖閣諸島は安保条約の適用範囲(5条)と言っているが、無人の島に米軍は出てこないだろう。大統領候補のトランプ氏が言っているように「日本は独力で国を守れ」という意見が言論界にも広がっている。
 北朝鮮の無謀、中国の膨張は日本が招いたものではない。この時期に当たって、安倍政権はよくぞ新安保法を成立させておいたものだと思う。ところが野党は「新安保法廃止」の一点で結集して選挙をやるという。頭がおかしいのではないか。
 当面、日本の安全を確保するにはイージス艦とPAC3(地対空誘導パトリオット)を大幅に増やすしかない。イージス艦は向こうが撃ってくるミサイルを撃ち落とす能力(海上配備型迎撃ミサイル=SM3)を持っているが、目下所有しているのは6隻。8隻体制にしようとしているが、一艦で持てるミサイルの数は100発未満。全部撃ち終ると基地に戻って積み込まねばならない。PAC3は敵のミサイルを撃ち落とす能力があるが、射程はせいぜい30〜40キロしかない。日本はこれを36基持っているが、2基をペアで運用するため日本全体を18ヵ所しか防御できない。
 このうすら寒い状況を打破するには、専門家によるとPAC3を増やすことと、弾をケタ違いに備蓄するしかない。しかしPAC3も弾も高価だし、撃ち損じも出るからエア・ボン・レーザー(ABL)の開発を進めるべきだという。これはレーザー光線を放つ電磁気兵器で、これをジャンボ機に積んで、敵機や敵ミサイルに光を当てるだけ。コストは一発100円以下になる。日本がこの兵器を開発すれば、攻めてくる国はなくなるだろう。これこそ究極の抑止力となる。
 潜水艦は探査能力と攻撃能力で中国の40年先を行っている。中国はこの能力をつけなければ太平洋を半分獲ることはできない。


(平成28年3月23日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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