我が国の中国直接投資激減
―「中国ルール」国際社会で通用しない―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 日本から中国への直接投資が激減している。2015年12月の対中投資は中国商務省によると全体で8.2%減の122億3000万ドル(約1兆3936億円)だったが、日本からの直接投資は何とマイナス34.5%激減したという。東京商工リサーチの調べだと日本国内の倒産で中国を原因とする倒産は15年で計76件、約2300億円になった。前年14年より件数で7割増、負債額で11倍に達したという。中国経済の様相はかつての日本のバブル並みだが、中国政府はなお6.5%の成長を維持していくと言っている。
 2008年のリーマンショックに当たって中国は約50兆円もの財政資金を投下して、世界景気を救った。その手法を繰返した結果、世界経済は安定したものの、中国バブルは一段とスケールが大きくなった。目下、バブルが弾けつつあるというので、中国政府は周辺国に「一帯一路」と称する公共投資を呼びかけている。これで鉄や公共投資材を消費しようという思惑だ。そのために既存の国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)ではラチがあかないからアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立して金融を廻そうという思惑だ。欧州はAIIBに参加する意向を示しているが、日米は慎重だ。
 AIIBが活躍するためには元のIMFの特別引出権(SDR)の仲間入りが必要。そのためには相場操作や金利規制をやめる約束をしなければならない。パニック危機が来た時、中国当局が何をするかわからないのではSDRの資格がない。中国は委細構わず国際金融の仲間入りをしようとしているが、これはバスの運転手が免許証なしで仲間に入ってくるようなもの。この結果、AIIBが出資を募っても応ずる国は少ないのではないか。
 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)条約がまとまった時、オバマ大統領は「中国のような国に経済ルールを作らせてたまるか」と言った。貿易ルール、経済ルールは戦後、各国が苦労を重ねて、試行錯誤の上に作り上げてきた。中国はその中で特殊な「中国ルール」を適用させようというようなものである。
 元々、資本市場や株式市場は各企業が会計を公正に発表して公平な競争をすることが前提にある。不正直なことをすれば「東芝」の憂き目を見るのが当然。ベトナムはTPP妥結に当たって国有企業の民営化という重い作業を背負わされた。中国企業に民営化や公正な経理を求められるだろうか。
 3月、全国人民代表大会(全人代)で発表された汚職で摘発された公務員は前年度より1.5%減ったが、なお5万4249人だったと発表された。何十年も昔から、この程度の数字が発表されている。胡錦濤前国家主席は2000億円の蓄財を米紙にすっぱ抜かれた。共産党独裁である以上、企業や利権ポストからの盗みは止まらない。政争の全ては利権争いが根元にある。元々、不正直な企業経営で資本主義市場に参加するのは無理だ。


(平成28年3月30日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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