国家の現実を認識できない「民共」共闘
―「新安保法廃止」で国家国民を守れるのか―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 民進党の岡田克也代表と共産党の志位和夫委員長は参院選を前に「民共」共闘を訴えた。志位氏は当初は「国民連合政府」樹立で政策協調を図りたかった。ところが民進党内では前原誠司民主党元代表が「シロアリと組むのか」と厳しく咎めると、志位氏は「新安保法廃止」の一点でよいと妥協。香川県を除くすべての一人区で共産党は独自候補を取り下げた。しかし民進党内から「新安保法廃止」は党内でさえ議論されていないとの不満が噴出。加えて、南シナ海の現実の前で「民共共闘と見られては選挙にならない」との計算が働いたのだろう。岡田代表は米大使館にキャロライン・ケネディ駐日大使を訪ねて「安保同盟を白紙にするのではない。新安保法成立前に戻すだけだ」と釈明した。

 志位氏の思惑は、この際、民進党と組んで日米安保条約を潰してやるというものだったろう。岡田氏はその志位氏と組むのがあまりにも危険と悟って米大使にまで断りを入れに行く。この振幅の大きさは民進党の信用問題にかかわるのではないか。

 今回の参院選の争点はアベノミクスをどう評価するかの一点だろう。新安保法は尖閣諸島に中国やロシアの軍艦が入ってくる事態を見て、よくぞ「新安保法」を成立させておいてくれたと庶民はホッとする思いだろう。岡田氏がケネディ大使に「安保廃止ではない」と断りに行かざるを得ない現実がある。新安保法の内容は実はこれまでの自衛隊の運用方法と余り変わっていない。それはあくまでも警察官と同様の対応しかできないということだ。正当防衛でなければ撃ち合いの場面でも先制攻撃をしてはならない。今回の法改正でこれまで伴走するだけだった米艦船護衛の際の武器使用は認められた。駆けつけ警護も認められた程度。憲法9条2項を変更しない限り、普通の軍隊にはなれないのだ。

 アベノミクスは(1) 金融緩和 (2) 財政出動 (3) 構造改革―の3点である。(1)については円安株高をもたらした。(2)(3)については、成果が出ていないと民進、共産が激しく攻めているが、そもそも1、2年で片が付く問題なのか。デフレ回帰の傾向を止めるには相当の財政出動が必要だ。そういう時期にあって消費税の2年半延期は妥当な決定だった。構造改革については農業の再生の目途がついたように見える。農協による保護農政から一変して競争を導入する政策に変えようとしている。安倍政権誕生時、農産物の輸出は3000億円程度だったが、既に倍近く伸びている。安倍首相は早くも目標を1兆円に引き上げたが、これも実現可能の数字だ。

 一億総活躍社会の手始めに保育所の増設、保育士の待遇改善を取り上げたのも、不十分ではあるが、妥当だ。安倍首相はアベノミクスは道半ばとの認識を示している。これに代わって野党諸党はどのような財政運営、経済政策を採れと言うのか。民共共闘による新安保法反対一点で選挙をやれというのは無理難題だ。民進党は新安保法廃止のあとをどうするのか。

(平成28年6月15日付静岡新聞『論壇』より転載)

 
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