澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -80-
「C型包囲網」突破を狙う習近平政権

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 2012年11月、習近平政権は「中華民族の偉大なる復興」を掲げて登場した。だが、目下、習体制(「太子党」)は日々悪化している中国経済はそっちのけで、「反腐敗運動」という名の“権力闘争”に明け暮れている。
 2016年2月、習近平主席はわざわざ人民解放軍の改編まで行ったが、目論見が外れた。元来、習主席は、旧北京軍区と北朝鮮を支援し続ける旧瀋陽軍区(「上海閥」)を合併し、後者の解体を目指していたはずである。
 ところが、実際、旧瀋陽軍区は内モンゴル自治区(以前は旧北京軍区に含まれていた)までウイングを西へ拡げて、「北部戦区」に生まれ変わっている。北京軍区と瀋陽軍区の統合は失敗し、北京政府による北朝鮮操縦は“絵に描いた餅”に終わった。そのため、金正恩体制は今もって北京政府の意向に従う気配がない。

 さて、習近平政権は、中国が経済大国になった以上、当然、軍事大国にもなるべきだと考えているふしがあるのではないか。つまり中華帝国を中心とする「中国的世界秩序」(ジョン・フェアバンク)の再構築である。
 そこで、習体制は完全に「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)政策を捨て、露骨なまでに、対外的“膨張”(「軍拡路線」)を行うようになった。
 昨今、中国は南沙(スプラトリー)諸島のファイアリー・クロス礁(永暑礁)では、3000m級の滑走路を完成させた。他方、西沙(パラセル)諸島のウッディ島(永興島)では、長距離地対空ミサイル「HQ9」(紅旗9)を配備した。米オバマ政権の対中“弱腰外交”を見越してのことである。
 中華帝国は、1840年のアヘン戦争敗北に始まり、1945年の日中戦争終結まで、100年以上も西欧諸国(日本を含む)に国土を蹂躙され続けた。
 近年、経済力をつけた中国は、かつての“ルサンチマン”(弱者が強者に対し抱く怨念)の復讐を果たすべく行動に出ている。そのためには、中国はまず「C型包囲網」(戴旭)を突破する必要があるだろう。
 この「C型包囲網」とは、東アジア地図を見ればすぐにわかる。中央に中国があり、東側には日本が位置する。西側には、バングラデシュやインド・パキスタン等が存在している。その地図を90度左回転してみれば、中国の北側に日本列島が位置するようになるだろう。
 それを見ると、フィリピン・台湾・沖縄・日本列島が中国大陸沿岸を取り囲むように存在する。まるでアルファベットのCの文字を描いているかのようである。中国にとっては、自国を封鎖する「C型包囲網」とも呼ぶべき環(「第1列島線」)だろう。
 この中では、(フィリピンと日本は別として)台湾と沖縄が比較的弱い鎖である。無論、中国としては、その弱い部分を狙ってくるに違いない。もし、台湾と沖縄が中国の影響下に入れば、中国海軍は自由に太平洋へ出ることが可能になる。
 そこで、第1に、習近平政権は、台湾の馬英九政権(国民党)と手を組んだ。2012年1月、馬英九総統が再選された。その年の秋から翌春にかけて、習近平政権が本格的に発足すると、台湾海峡両岸は、尖閣諸島問題、慰安婦問題、「抗日戦勝記念式典」等で歩調を合わせるようになった。
 しかし、今年1月に行われた台湾のW選挙(総統選挙・立法委員選挙)で国民党は惨敗し、5月20日には「台湾人意識」の強い民進党政権が誕生する。したがって、習近平の思惑通りに運んでいない。
 第2に、沖縄には、2014年12月、翁長雄志知事が誕生した。翁長知事は中国共産党と関係が深いと言われる(今年1月に披露された「龍柱」がその典型か)。そこで、北京は沖縄の基地問題を利用し、安倍晋三政権に揺さぶりをかけようとしている。普天間飛行場の辺野古への移設をめぐり、沖縄県と中央政府が激しく衝突しているのはそのためではないか。
 中国共産党は、将来的に沖縄を“独立”させて「琉球」を復活させるつもりだろう。そうなれば、在沖米軍は沖縄から出て行かざるを得ない。最終的に、北京は「琉球」をその統治下に置く腹積もりに違いない。
 一方では、習近平政権は今の安倍内閣を1日でも早く瓦解させたいと考えているのではないか。けれども、安倍首相は意外にしたたかである。
 例えば、第2次安倍政権発足直後に打ち出した「セキュリティ・ダイヤモンド構想」(自由と民主主義という価値観を共有する米国ハワイ・オーストラリア・インド・日本を結ぶ“対中包囲網”。「アジア版NATO」)は注目に値しよう。
 また、安倍政権は南西諸島防衛のため陸上自衛隊を同諸島へ派遣し、中国軍の“膨張”を牽制しようとしている。
 以上のように、今後、日中は「第1列島線」をめぐり、激しい攻防が続くだろう。。


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