澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -88-
複雑な党内事情と「反習近平連合」の誕生

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 よく知られているように、中国では共産党の政治局常務委員会(7人で構成)が最高意志決定機関である。毎年3月に開かれる全国人民代表大会と人民政治協商会議(両会)は、その追認機関に過ぎない。
 常務委員会で、序列ナンバー1の習近平主席とナンバー6の王岐山(中央紀律検査委員会書記)は「太子党」である。この「習・王コンビ」で「反腐敗運動」を推し進めている。
 ナンバー2の李克強首相は、「共青団」出身である。他方、ナンバー3の張徳江、ナンバー4の兪正声、ナンバー5の劉雲山、ナンバー7の張高麗の4人は「上海閥」に属すると言われる。そのため、政治局常務委員会内、1番のマイノリティである李首相の権力基盤はきわめて弱い。
 今年3月5日、李首相は全国人民代表大会で「政治活動報告」を行った。その際、なぜか習主席は李首相に対し、握手はしない、拍手はしない、話はしないと“3無”を貫いた。そして、両者はほとんど眼を合わせなかったという。まさに“異常事態”である。
 過去、@胡耀邦政権下(実質的にはケ小平政権下)では「胡耀邦・趙紫陽(首相)コンビ」 A江沢民政権下では「江沢民・朱鎔基(首相)コンビ」 B胡錦濤政権下では「胡錦濤・温家宝(首相)コンビ」が組まれた。そして、各政権の首相はトップと連携し、十分に力を発揮したのである。
 だが、現在の「習近平・李克強(首相)コンビ」に限り、李首相にはほとんど実権がなく、単なる“添え物”に過ぎない。2013年11月、習主席が「中央全面深化改革領導小組」を立ち上げ、経済に関しても権力を自らに集中させたためである。

 さて、既報の通り、最近、“人気ブロガー”の任志強(3700万人以上のフォロワーがいる「太子党」。習近平政権に対し歯に衣着せぬ批評を展開)のアカウントが閉鎖された。※「チャイナ・ウォッチ」-84-参照
 任志強の処分について、習主席と王岐山の2人の意見が割れた。
 王岐山にとって任志強は古くからの友人であり、自分の弟子でもあったので、王は任をかばった。ところが“毛沢東型皇帝”を目指す習主席にとっては、任志強の習政権への露骨な非難を許せるわけがない。そこで、党の宣伝機関は任批判を開始したのである。
 だが、たとえ習主席といえども、同じ「太子党」の人間を簡単に処分するわけにはいかない。そのため、盟友のはずの習近平と王岐山が任志強の処分をめぐり“仲違い”した公算が大きい。
 習近平・王岐山コンビに亀裂が入れば、たちまち「反習勢力」の付け入る隙が生じる。実際、共産党内では、「反腐敗運動」や毛沢東政治への回帰を快く思っていない勢力が存在している。
 とりわけ、習・王の主要ターゲットとなっている「上海閥」(恐らく「共青団」も)や軍の改編で削減予定(あるいは、既にリストラにされた)約30万人の軍人たちは「反習連合」(=「習近平打倒同盟」)でまとまったと伝えられる。
 その第1弾こそが、今年3月4日に突如ネット上(『無界新聞』)に出現した「習近平主席への辞任要求公開状」ではないか。それは、すぐに削除されたが、共産党員が公然と習近平批判をした意義は決して小さくないだろう。※「チャイナ・ウォッチ」-87-参照

 実は、「反習連合」には習主席を廃して、李首相をトップに据える計画があるという。
 李首相は、現在60歳(1955年7月1日生まれ)であり、習主席(1953年6月1日生まれ)よりも若い。ちなみに、他の政治局常務委員は68歳以上が定年なので、来年秋、全員が辞めなければならない。ただし、例外規定を作れば話は別である。
 李首相は、来年19期(2017年秋以降)も政治局常務委員を継続できる。それどころか、李首相はその次の20期(2022年秋以降)でも、まだ66歳なので政治局常務委員会に残ることが可能だろう。
 今後、「反習連合」は、習主席に対して巻き返しに出る可能性が高い。場合によっては、習主席暗殺あるいは習政権に対するクーデター等も考えられる。
 CCTV等で、習主席を警護するSPの数を見れば、いかに習主席の命が狙われているかがわかるだろう。常時10人〜20人前後のSPが習主席の周りを取り囲んでいる。
 習主席の“行き過ぎた”「反腐敗運動」が、まるでブーメランのように、今こそ自らの身へ降りかかろうとしているのではないか。


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