澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -121-

南シナ海をめぐる米中の“つばぜり合い”


政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年6月初旬、シンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)が開催された。
同4日、中国人民解放軍の孫建国連合参謀部副参謀長が防衛省の三村亨防衛審議官と会談した。その際、孫副参謀長は、「日米両国が南シナ海でパトロール航行などを合同で実施すれば、中国側は黙っていない」と言明している。
 中国軍が、日米による“合同パトロール”に、どのような対応を見せるのか注目されよう。
 また、翌5日、孫建国副参謀長は米国の「航行の自由」作戦に対しても強く反発している。

 ここで、昨年10月から現在までの米軍の南シナ海での行動を簡単に振り返ってみよう。

 昨年10月27日、オバマ政権は、ようやく第1回目の「航行の自由」作戦を敢行した。米イージス艦(ミサイル駆逐艦)「ラッセン」(母港は横須賀)が、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で、中国が造成した人工島から12カイリ(約22km)以内を「無害通航」で通過している。

 この時、中国海軍は、艦艇と航空機でラッセンを追尾・警告したとされる。

 「航行の自由」作戦は、ペンタゴン内部で、昨年5月頃から検討されていたという。オバマ大統領はその作戦に消極的だった。本来、南シナ海で、中国軍の動きが活発化(人工島での軍事施設構築等)する前から、同作戦は遂行されるべきだったのかもしれない。

 今年1月30日、米国は、今度は、西沙(パラセル)諸島の中国が領有を主張する島から12カイリの地点で第2回目の「航行の自由」作戦を行った。米イージス艦「カーティス・ウィルバー」(母港は横須賀)がその作戦を実行している。

 同日、中国国防省は「重大な違法行為で断固反対する」との談話を発表した。そして、中国は「米軍のいかなる挑発行為にも中国軍は必要な措置を取る」と警告した。しかし、国際法的に、米軍が行っている「航行の自由」作戦は、公海上を通過するだけなので、違法だとは思われない。

 今年5月6日、米太平洋艦隊のスウィフト司令官は、過去2度実施した「航行の自由」作戦に関して意外な事実を公表した。

 同司令官は、米イージス艦が中国の「海上民兵」と呼ばれる武装した漁民が乗り込んでいる船に囲まれた、と明言したのである。つまり、中国海軍が直接、米イージス艦に対抗するのではなく、代わりに武装漁民が近づいたという。

 中国海軍が、あえて軍艦で応対しなかったのは、米中間での不測の事態(戦闘)を避けるためだったからではないか。あるいは、中国側が米イージス艦に恐れをなした可能性もある。

 その4日後の10日、米海軍は、第3回目の「航行の自由」作戦を実施した。米国は、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島にあるファイアリクロス(中国名は永暑礁)から12カイリ内に、米イージス駆逐艦「ウィリアム・P・ローレンス」(母港はサンディエゴ)を航行させている。

 他方、6月5日、アジア安全保障会議の最終日、孫建国副参謀長は、「武力をひけらかし、徒党を組んで中国に対抗し、仲裁受け入れを迫ることに断固として反対する」と述べた。

 目下、フィリピンが常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に南シナ海での領土問題(中国の主張を国際法違反とする)を提訴しているが、近く裁定が出る予定である。これを念頭に、孫副参謀長はフィリピン等を批判したと考えられよう。

 中国は、初めから仲裁裁判所の判決の受け入れを拒否する意向である。国際法を完全に無視するつもりだろう。

 更に、翌6日・7日、北京で第8回「米中戦略・経済対話」が行われた。

 7日の米中共同記者会見で、ケリー米国務長官は、南シナ海問題フィリピンが提訴した仲裁裁判に関して「法の支配の下での平和的な解決を支持する」と表明した。

 これに対し、中国の楊潔篪国務委員(王毅外相より格上)は「仲裁裁判を受け入れないという立場は変わらない」とし、双方の主張は平行線をたどっている。

 中国共産党は、現在の「パクス・アメリカーナ」(米国による平和)から、将来「パクス・シニカ」(中国による平和)を目指しているのではないか。それは、習近平主席の掲げる「中華民族の偉大なる復興」(「中国的世界秩序」の復活)と重なるのかもしれない。

 南シナ海をめぐり、今後、米中の“つばぜり合い”がますます本格化する公算が大きい。


 


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