澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -128-

村長連行に対し抗議デモを行う広東烏坎村民


政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 広東省汕尾市には、陸豊市東海街道烏坎という村がある(中国の場合、しばしば市の中に市が存在する)。
 2012年2月、民主的な選挙を経て、林祖恋(元の名前は林祖鑾)が村長(主任)に選ばれた。さらに、翌3月、村民委員会の選挙が行われた。おそらく、烏坎村は、中国で1番民主化された地方自治体である。
 当時、胡錦濤政権下にあり、「共青団」の汪洋が広東省トップ(広東省委員会書記)だった。汪洋は、この烏坎村の民主化を容認した。ある意味、烏坎は実験的な村だった。

 選出された林祖恋村長は、村民のために働き、2014年3月、再選を果たした。現在、2期目である。

 ところが、習近平政権は、2015年7月、「国家安全法」を施行した。そして、習政権は、民主的な村が増える事を危惧したせいか、林村長を収賄の疑いで逮捕した。その直後、烏坎村党委員会副書記(ナンバー2)の張水金が、すぐに烏坎村党委員会書記(トップ)に就任している。

 それに対し、烏坎村民約3000人が立ち上がって、林祖恋村長の即時釈放を求めた。広東省の隣りの香港でも、林祖恋釈放を求めるデモが起きている。

 現在、広東省トップは、「共青団」の将来を担う第6世代のエース、胡春華である。

 かつて、「共青団」の胡錦濤主席は、部下の汪洋の烏坎村に対する措置を黙認した。しかし、目下「第2文革」を推進中の習近平政権下で、胡春華が烏坎村の民主主義を守り切ることができるか、微妙な情勢である。

 さて、なぜ烏坎村が民主化されたのか、簡単に振り返ってみたい。

 2009年から11年にかけて、当時の村民委員会が村の土地(正確には、土地使用権)を売却して約7億元と言われる収入を得た。本来ならば、この取引には、村民会議での同意が必要だったが、村民委員会の役員らは、勝手に土地を処分している。

 烏坎村民には、1人あたり550元の補償金しか入らず、残りには、村民委員会役員のメンバーらが山分けしたと見られる。

 そこで、村の代表らは、ちゃんと調べるように陸豊市等の上級機関に何度も陳情を行った。

 そして、2011年9月、烏坎村ではついに大きな抗議デモが起きた。その際、3000人の村民と警察が衝突している。だが、らちがあかないので、村民らは、村民臨時代表委員会(13人の理事)を立ち上げた。

 同年12月9日、汕尾市政府は記者会見を開き、調査結果報告をした。

 (1)烏坎村党支部書記と副書記に党紀違反があったので、両名を解任。

 (2)陸豊市政府は土地問題をすべて処理し、問題は解決済。

 (3)公安は「烏坎村民臨時代表委員会」を非合法組織とし、薛錦波副会長ら5名の関係者を逮捕。

 けれども、烏坎村民はその内容に激怒し、再び激しいデモが起きている。

 当時、すでに薛錦波副会長が拘束され、取り調べを受けていた。だが、薛はその間に死亡した。

 これを契機にして、公安と村民の間で再び衝突が起きた。当局側は、烏坎村への電気・水道・食糧等の供給を止めた。それに対し、烏坎村民らは、SNSを利用し、国内外に支援を求めた。

 結局、同月20日、広東省委員会副書記の朱明国が、「烏坎村民臨時代表委員会」を正式に承認した。同時に、朱は村民の行き過ぎた行為も不問とすると烏坎村民側に約束した。翌日、逮捕者の中の3人も釈放されている。

 さて、現在、拘束されている林祖恋村長が釈放されなければ、村民が更に大規模のデモを起こすに違いない。反対に、胡春華が簡単に林村長を釈放すれば、習近平主席の怒りを買うことになるだろう。胡春華が、烏坎村問題の処理を誤れば、出世の道は険しくなるかもしれない。

 実は、来年2017年秋、共産党第19回大会(19大)では、習近平と李克強以外のメンバー5人は定年退職する予定である。

 党内ルールでは、党大会までに67歳までならば留任できる。だが、68歳以上になれば、原則、引退しなければならない(習近平の盟友、王岐山も政治局常務委員として残る可能性も排除できない)。その時、誰が政治局常務委員となるのか予断を許さない。

 そこで、今年夏の北戴河会議が注目される。現役および引退した最高指導部がリゾート地、北戴河に集まり、話し合いが持たれる。そこで、19大の一部人事が決定される公算が大きい。



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