第2次世界大戦においてナチスドイツと大日本帝国によって実行された大戦略の理由づけに地政学(古典地政学)が利用されたため、戦後地政学はタブーとして扱われ、日本においても「悪の論理」と呼ばれてきた。しかし長い年月を経て、地政学への抵抗感は少しずつ薄れ、安全保障の議論において、徐々に地政学という言葉が登場するようになった。本稿では、そんな地政学の観点から、中国と日本の安全保障環境について論じる。
海洋国家と大陸国家
地政学の特徴的な理論的枠組みは、国家を「海洋国家」と「大陸国家」に分類することである。一般的に海洋国家と呼ばれる国は、長い海岸線を持ち、主に海運を活用した交易活動によって国力を高めるため、伝統的に海軍力の増強と海洋戦略を重視する。一方で大陸国家は、国境と接する周辺の国々を征服し、自国の領土を拡大することによって国力を高めるため、伝統的に陸軍力の増強に力を入れる。
基本的には多くの国が、この海洋国家と大陸国家両方の性質をある程度持ち合わせており、完全な色分けは難しいが、地理的な環境や国際情勢によって、各国が国家戦略の重心を海洋と陸地に振り分ける割合に違いが出てくる。
1国が強大な海軍力と陸軍力を併せ持つことは非常に難しいと言われているが、理由としては次のことが考えられる。@大陸国家がシーパワーを求めて海洋進出を試みると、海洋国家が既存の権益を守るためにそれを妨害する。A強大な海軍力を築くには、高度な造船技術と錬度の高い人員が必要であり、そのためには長い時間と莫大な費用がかかる。B海洋国家が強大なシーパワーだけでなくランドパワーを国力の基盤とするために領土を強引に拡大したとしても、その領土と各パワーを維持することは容易ではない。
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