【特別寄稿】

大使からの手紙
―From Brussels―
(その4)

前ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男氏
sakaba 日本に戻って既に4ヵ月近くが過ぎました。つい最近までベルギーに大使として在勤していたことがまるで嘘のように当時の生活が記憶から遠ざかりつつあります。41年半に亘る外交官生活の最初の勤務地がベルギーで、そして最後の勤務地もベルギーになるというのは誠に奇縁でした。この間に、34年間の空白期間があり、独身であった私は孫のいる妻帯者に身をやつす(?)一方、「小国・ベルギー」にも大きな変化があって、2度の在勤時代には何の連続性もありませんでした。若い外交官の目に映ったベルギーと大使として経験するベルギーとの間にも明らかな違いがあり、特に人的交流の層と幅があまりに異なるために、同じ世界に住んでいたとは思えません。それと、ベルギー大使としての私にはNATOへの日本政府代表という肩書も付いており、公務の半分近くがNATOに関わる安全保障関係の仕事になったことも34年前との大きな違いだったように思います。今回の「手紙」は最終回になりますので、ベルギーの政治・社会が抱える諸問題を総括的に振り返った上で、この国の安全保障にかかわる一断面を切り取ってお話し、4回に亘った「大使からの手紙」シリーズを締め括りたいと思います。

〈ベルギーの国内状況はヨーロッパの縮図〉
 近年、特にリーマン・ショック以降、ヨーロッパは豊かな北部と貧しい南部に分化しつつあるように見えます。欧州連合(EU)の統合が深化する中で巨大市場のメリットを最大限に享受する独や北欧諸国に対して、イタリア、スペイン、ギリシャといった南欧諸国は経済発展が遅れ、巨額の対外債務に苦しんでいます。フランスの影響力にも大きな陰りが見え始めています。ユーロ圏の中での「勝ち組」と「負け組」の関係は固定化されつつあるのではないでしょうか。こうした状況にあって、オランダやベルギーといった小さな国はドイツ経済に寄り添うことで生き延びようとしていますし、中・東欧の国々も同様ではないでしょうか。私が、ベルギー人の友人とこうした問題を話題にしますと、ベルギー国内の政治経済状況がヨーロッパのそれと(縮尺の違いこそあれ)酷似していると指摘する人が少なくありません。

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