【特別研究】

ミャンマーの戦略的重要性と日本のアプローチ
―インド・太平洋地域における新たな安全保障ダイヤモンド―
(その1

海上幕僚監部防衛部・米海軍大学客員教授 下平拓哉

はじめに
 2010年10月、クリントン(Hillary Rodham Clinton)前米国務長官は、ホノルル演説において、「インド・太平洋(Indo-Pacific)」という言葉を初めて使い、それ以降インド洋と太平洋を戦略的に融合した安全保障の議論が盛んになっている*1。この演説は、昨今の中国の活発な海洋進出を踏まえてのものであった。インド・太平洋地域における海洋をめぐる安全保障問題のなかでも、最近特に顕著なのがインドを包囲するかのような港湾を中心としたインフラ整備である。中国は、「真珠の首飾り」*2に象徴されるように、パキスタンのグワダル港、スリランカのハンバントタ港、バングラデシュのチッタゴン港、ミャンマーのティラワ港等における港湾の整備を進め、2013年10月にはより広範な経済圏構築を目指す「21世紀海上シルクロード(21世紀海上絲綢之路)」*3(以下、海上シルクロード)構想を明らかにした。これに対してインドは、「ダイヤのネックレス」*4構想を掲げ、中国への対抗姿勢を明瞭にしている。
 中国とインドによる港湾をめぐるこの攻防は、単に経済上の問題のみに留まらず、安全保障上の問題でもある。港湾は、海洋への自由なアクセスを確保するための重要な要素の一つであり、それを平和的かつ持続的に確保していくためには、多国間の協力関係が重要な鍵となるであろう。

*1 Hillary Rodham Clinton, “Americaʼs Engagement in the Asia-Pacific,”October 28, 2010, http://www.state.gov/secretary/ 20092013 clinton/rm/2010/10/150141.htm?goMobile=0.インド・太平洋に関する体系的な研究については、山本吉宣『アジア(特に南シナ海・インド洋)における安全保障秩序』日本国際問題研究所、2013年3月に詳しい。
*2 “ʻStrings of pearlsʼmilitary plan to protect Chinaʼs oil: US report,” Space War, January 18, 2005, http://www.spacewar.com/ 2005 / 050118111727 .edxbwxn8.html.
*3 “Speech by Chinese President Xi Jinping to Indonesian Parliament,” ASEAN-China Centre, October 3, 2013.
*4 Raja Mohan, Indianʼs new role in the Indian Ocean, 2011 , http://www.india-seminar.com/ 2011 / 617 / 617 _c_raja_mohan.htm; Akjilesh Pillalamarri, “Project Mausam: Indiaʼs Answer to Chinaʼs ʻMaritime Silk Roadʼ,” The Diplomat, September 18, 2014.




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