【特集】第33回定例シンポジウム報告「日本の領域は守られているのか」
《報告》
南シナ海と航行の自由について

特別顧問・ジェームス E. アワー日米研究センター代表取締役所長
ヴァンダービルト大学名誉教授 ジェームス E.アワー

 皆さん、こんにちは。二つの興味深い講演をありがとうございます。
 私は52年前大学を卒業し、最初の26年間は主に海軍司令官として国防総省に勤務し、残りの26年間はヴァンダービルト大学で教授を務めました。私の海軍での最初の赴任地は佐世保でしたので、「九州ボーイ」と自ら呼んでいましたが、今はテネシー州の農場に住む農業従事者です。農業従事者は素晴らしい外交官や将官に話をする資格がありませんので、自分の意見を述べる代わりに、航行の自由や国内法の専門家であるジェームス・クラスカ海軍大学教授の見解を紹介したいと思います。
 クラスカ氏は日本やASEAN諸国にとって重要な南シナ海研究を専門としており、最近「南シナ海の9つの皮肉(Nine Ironies of South China Sea)」(URL:http://thediplomat.com/2015/09/thenine-ironies-of-the-south-china-sea-mess/)と題する大変興味深い論文を執筆しました。本報告ではこの9つの皮肉について簡潔に紹介した後、自身の2つのエピソードを紹介し、最後に提言をしたいと思います。

南シナ海の 9 つの皮肉
 第一の皮肉は、発展途上国は、国連海洋法条約をめぐる交渉の中で、海洋資源に対する排他的権利を得るために、不本意ながら海峡と排他的経済水域(EEZ)における航行の自由については譲歩せざるを得なかったということ。
 第二の皮肉は、中国はその当時、沿岸諸国のためにより多くかつ確実な漁業権と鉱業権を強く要求する発展途上国の先導者でしたが、現在中国は自身を一流大国と見做し、その立場を撤回したいと考えているということ。
 第三の皮肉は、中国と近隣諸国間の争いの中心は、中国の飽くことを知らない資源への欲求ではなく、寧ろ増幅する中国政府の権力と東アジアにおける戦略的覇権にあるということ。勿論中国は依然として資源を欲しいと思っていますが、それ以上に、南シナ海における覇権の確立を目指しています。
 第四の皮肉は、中国は自身の南シナ海政策を正当化するため、大真面目に心から独自の国際法の「解釈」を主張しているということ。この主張は中国以外の国では全く理解されるものではありません。



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