はじめに
昨年7月にワシントンD.C.に赴任して早いもので4カ月が過ぎ、この間、10月に日本でのシンポジウムに呼ばれて約2週間、11月に慶應義塾大学での講義の為に約10日間、帰国した。未だたった数ヶ月ではあるが、日米両国を行き来して、国際安全保障情勢についての両国の認識―TOKYO VIEW とWASHINGTON VIEW―のギャップを改めて感じている。
例えば、11月24日に日本で開催された日米の有識者による「日経CSIS共催シンポジウム―日米同盟の新たな使命と可能性―」において、25日付の日経新聞朝刊によれば、「来年の大統領選挙に向けて、対アジア政策は大きな争点になっていない。共和党、民主党ともにアジアが米国の利益に深く関わっていると認識している」(ハムレCSIS所長)、「誰が新しい大統領になってもアジアに積極的に関わるべきだとする米国の姿勢は変わらない」(スタインバーグ元国務副長官)、という認識が示された。しかし、この事は米国にとって、アジアの安全保障問題―端的に言えば、対中政策―が最優先であるという事を意味しない。従って、「……米国はロシアに厳しすぎて、中国に甘すぎる。ロシアと対話し、ロシアが前向きな役割を果たせるように努力してほしい。また中国と一切事を構えないという方針を貫いた結果、中国の思い通りになっている。……」(森本敏元防衛大臣)という日本側の不満が生じ、「日ロが首脳会談をするのは良い事だが、国際社会の文脈も踏まえてほしい。会談を開くなら、ロシアに対して、法の支配や領土侵略に関する原則を掲げるべきだ」(スタインバーグ元国務副長官)という米国側の不満が生じることとなる。
このようなギャップが生じるのは、両国の脅威認識に違いが存在する事が原因である。「今更……」ではあるが、これまでとの大きな違いは、安倍政権下において初めて国家安全保障戦略が策定され、安保法制を含む一連の安全保障システムの改善によって、「積極的平和主義」の下、従来の「地域限定・リアクティブ」な安全保障政策から、「国際的・プロアクティブ」な安全保障政策への転換を図りつつある我が国にとって、これまで以上にこうした日米の認識ギャップの解消が重要だと考える。
こうした問題認識に基づき、本稿では、ワシントンD.C.において私が「肌で感じている」、現在の米国の国際安全保障情勢の認識について述べた上で、米国の対中政策の現状を分析し、日米の安全保障に関する認識ギャップ是正の一助となる事を期待するものである。
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