【特別寄稿】
ベトナムの新しい共産党指導部人事と対外政策の行方

顧問・元ベトナム国駐箚特命全権大使 坂場三男

第 12 回ベトナム共産党全国大会の意外な結末
 本年1月20〜28日、ベトナム共産党の第12回全国大会が開催され、2016〜20年の5年間を担うベトナム共産党指導部の人事が決定された。最大の焦点は過去10年間に亘り首相職にあったグエン・タン・ズン首相の共産党書記長就任の有無であったが、結果はグエン・フー・チョン現書記長の留任、ズン首相は政界からの引退という意外なものであった。「意外」というのは、ズン首相の書記長就任、場合によっては国家主席兼任すらあり得るというのが最近までの大方の見方であり、この4月に72歳になるチョン書記長は当然に政界から引退するものと予想されていたからである。更に、ズン首相は自分が昇格した後の後任の首相職には子飼いの人物を抜擢するのではないかと予想する向きもあったが、こちらもグエン・スアン・フック現副首相が候補に推薦されており、予想とは違った。国家主席(大統領)候補はチャン・ダイ・クアン現公安大臣、そして国会議長候補はグエン・テイ・キム・ガン現国会副議長(女性)で、ズン首相に近いとされた南部ベンチェー省出身のキム・ガン副議長の首相就任は幻に終わった形である。
 私がもう一つ「意外」と思ったのは、現指導部のうちチュオン・タン・サン国家主席とズン首相の二人がベトナム南部出身であり、向こう暫くは人材豊富な南部中心の指導部人事が維持されるのではないかとの見方がある中で、次期指導部はベトナム北部からチョン書記長、クアン国家主席の二人が選ばれ、南部はキム・ガン国会議長のみとなる(注:フック首相候補は中部クアンナム省出身)ことである。もともと共産党の最高指導者ポストは従来から北部出身者が占め、首相ポストは南部からという「暗黙の了解」のようなものがあり、書記長就任を目指すズン首相の「野望」はムリ筋という見方もあったが、それにしても首相ポストまで南部から召し上げられたのは今回の権力闘争でズン首相らの南部派が大敗北を喫したことを示すものであろう。



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