菅直人首相の辞任が時間の問題となって、民主党は脱皮を遂げるだろう。菅・小沢一郎・鳩山由紀夫のトロイカ体制がなぜ崩れたのか。新しい民主党はどんなカラーになるのか。
小沢一郎氏が内閣不信任案に賛成する動きと呼応して谷垣禎一自民党総裁は不信任案提出に踏み切った。自公両党だけなら簡単に否決されてしまうから、与党の内紛に乗ずるという手菅について党内では疑問視する議員が多かった。もし、可決できたら、その後をどうするか。全く展望がないまま突進し、失敗し、不信任案という議会での最高の切り札を使い切ってしまったのである。参院で再び菅首相への問責決議案を出すこともできるが、憲法上、首相の任免について衆院の優位が定められている。その衆院が否決した不信任案を再度参院に出して、審議拒否に出るのは憲法の規定を軽んずる行為だ。そのような邪道を定着させるべきではない。
“壊し屋”といわれる小沢氏がなぜ今回、菅首相を倒せなかったか。共産・社民が不信任案に棄権の態度を決めた時点で、“反乱軍”には85票が必要となった。棄権者が出れば、この数はさらに増えるが、1日夜の小沢グループ決起集会に出席したのは71人(うち1人は代理出席)。その夜、中間派への働きかけは激しいものだったが、新規の加入はほとんど望めなかった。この時点で鳩山氏がグループをまとめて加われば反乱は一発で成功したはずだ。しかし、海江田万里経産相、大畠章宏国交相は「内閣不信任案には同調できない」と明言し、結局、鳩山グループで賛成に廻ったのは松野頼久、川内博史の二氏のみとなった。
“小鳩”連合が不成立とわかった時点で菅首相の盟友・北沢俊美防衛相と鳩山氏の側近・平野博文元官房長官が「話し合い辞任」の文書を作成した。この解釈をめぐって鳩山氏が菅首相を「ペテン師」「ウソつき」と罵倒するに至る。しかし、政権側は「月末に辞める」などと時間を切れば、翌日にはレイムダック(死に体)になってしまう。だからこそ「一定のメド」とぼかしたのだが、菅氏はあたかも来年にわたるような言を吐いて鳩山氏を激怒させてしまう。
鳩山氏に人を「ペテン師」という資格があるのか。オバマ大統領に「トラスト・ミー」(信じてくれ)と請け合いながら裏切る。総理辞任の際は「総理を退いた以上、次の選挙には立たない」とテレビを通じて全国民に宣言した。それなのにいつの間にか“続投”に代わり、代表選びや政局を主導しようという。こういうのこそペテン師というのではないか。
小沢氏は菅氏を降ろしたあと、選挙になれば“小沢新党”を作る腹づもりだったらしい。新党への参加を嫌って150人といわれた小沢グループの半分はついて来なかった。刑事被告人が党首であるような党を名乗って選挙で勝てるわけがない。総辞職の場合は自民党と手を組んで“大連立”を作る積りだったようだ。しかし自民党の古参議員さえ、小沢氏と手を握ることを敬遠した。民主党内は党員資格停止の小沢氏に何の権利があるのかとみていた。
要するに小沢氏は最後の勝負に敗れた。さらに鳩山氏はピエロの地位まで堕ちた。菅氏が辞任すれば民主党の古い殻がすっぽり剥がれる。
玉ねぎの皮を3枚剥いだような民主党ができるだろう。前原誠司氏が代表時代に掲げた三原則は@外交・安全保障政策は前政権と段差はつけないA政策は党内の多数決で決定するB公労協とは距離を置く――だった。
(6月8日付静岡新聞『論壇』から転載)
|