菅首相の「国家衰亡を加速する『脱原発』と対北関連献金疑惑」
理事・政治評論家  屋山太郎

 菅首相は徐々に追いつめられてきたようだ。首相はこれまで辞める条件として、@二次補正A特別公債法B再生エネルギー法―の3つをあげてきた。「私の顔を見たくなければ、早く法案を片づけてくれ」と言っていた。岡田幹事長も早期に処理して8月初旬には辞めて貰う算段だった。
 一方、自民党は内閣支持率低迷のまま菅政権が長引けば選挙に有利との思惑で法案処理を引き延ばしてきた。
 しかしここに来て2つの要素が浮上して民主党、自民党共に菅首相に早期退陣を迫るようになった。
 まず再生エネルギー法を簡単に成立させて良いのかという疑問である。菅首相は7月13日「脱原発」の方針を明らかにした。脱原発となれば再生エネルギー法を作って、自然エネルギー開発を進めるしかないが、脱原発方針は閣内でも党内でも了承されていない。国家の浮沈にかかわるエネルギー政策が菅直人個人の方針で転換されていいものか。菅氏は「私自身の考え」と断っているが、その後の国会答弁などは、あたかも脱原発方針が内閣の方針であるかの如くである。
 日本の電力料金はアメリカの2倍。このうえ脱原発となれば日本はいずれ貧乏国に転落するだろう。民主党も自民党も党の大勢は2、30年がかりで脱原発にもって行く。その間に再生エネルギーの開発を進めるというものだが、菅首相の口振りでは「とにもかくにも原発をやめる」方向に急いでいるように見える。国民に脱原発でやっていけるかの如き錯覚を与えている。
 世界中が原子力発電を止める、止めざるを得ないというなら、日本も止めていいだろう。しかし世界の趨勢は明らかに原発がふえる方向にある。中国でも100基ふやすといっている。中国は、中国式新幹線を輸出すると言ったくらいだから、原子炉も輸出するといい出しかねない。
 こういう国際情勢の中で、福島原発が事故を起こしたからといって、やみくもに脱原発に走っていいのか。むしろ高い技術水準にある日本の原子炉を磨き上げて輸出した方が国際貢献になる。民主党内部、自民党にも早く舵を切り直したいとの思いが渦巻き始めている。
 経済界も危機感を抱き始めた。米倉引昌経団連会長は「電力問題を間違えれば経済は崩壊する」と断じている。
 事故前の計算だが、経産省の資料では1キロワット当たりのコストは原子力なら4、5円だが、太陽熱なら50円に近いという。コストダウンができるようになっても30円前後だという。完全なる脱原発になれば日本であらゆる工場はやっていけなくなるはずだ。
 脱原発が既成事実化していく様を見て、自民党は「時を稼いで民主党の落ち目をみる」戦略はとれなくなった。下手に再生エネルギー法が成立すれば、脱原発の勢いを止められなくなる。しかも菅氏は再生エネルギー法が成立しない限り、首相の座にしがみつくだろう。
 そこで自民党は再生エネルギー法を阻止する一方で、菅氏には退陣を迫る方針に切り換えたようだ。その切り札が菅氏の政治資金問題だ。
 菅氏は在日韓国人から104万円の政治献金を受けて国会で追及されていたが、当日に3・11震災が起こって不問となった。しかし今回はそれに加えて菅氏の政治団体から北朝鮮に居る日本人拉致犯の息子が日本で活動している「市民の会」に6250万円を流したというのだ。菅氏の人格、政治信条に関する奇々怪々の事件だ。 
                 
                                                                   (8月3日付静岡新聞『論壇』より転載)
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