直ちに「公務員制度改革」に着手すべきだ
理事・政治評論家  屋山太郎
 民主党の代表選挙が迫ってきた。
 今のところ立候補の意志を表明しているのは野田佳彦財務相と馬渕澄夫前国交相の2人だが、樽床伸二衆院国家基本政策委員長、小沢鋭仁元環境相、鹿野道彦農水相らも出馬を考慮していると云われる。
 野田氏は立候補を見合わせた前原誠司前外相や仙谷由人官房副長官、枝野幸男官房長官らが推すとみられ、今のところ有力である。対抗馬として馬渕氏がいるが、当選 3 回、閣僚経験 1 回のみで、派閥もないのが弱点だ。必然的に小沢グループを当てにせざるを得ないが、小沢氏の傀儡となって負けた時の傷は大きすぎるだろう。小沢氏は政治資金規正法違反で起訴されているれっきとした刑事被告人で党員資格停止の身でもある。
 世間の常識ではこういう人物が代表決定に影響力を持つこと自体、民主党の信を落とす。かつて田中角栄氏が無所属で党外から田中派を牛耳ったが、その時とは環境が様変わりだ。
 他の候補者が本命の野田氏を前に様子を見ているのは、ここで小沢氏にかかわりを持つことの損得を計りかねているからだ。
 本命・野田氏の意図は年金・税の一体改革を掲げて自民党との大連立で膠着状態の政局を切り拓こうというものだ。一体改革は菅政権が仕込んだ“大政策”だが、2年前の民主党の公約には揚げられていない。真から望んでいるのは財務省である。
 財務官僚は谷垣禎一自民党総裁にも根回しし、昨年の参院選では菅首相も消費税の10%引き上げで谷垣氏と話し合いたいと述べた。この菅発言はまさに民主党員の意志を無視した独断専行で、衆院選大敗の原因となった。
 この一連の消費税引き上げムードは財務官僚が醸成したものだ。民、自両党内の民意や政権公約とは全く関係がない。野田・谷垣両氏がこの方針で突っ走るとしたら、国会議員の選挙など不要になる。誰に選ばれたわけでもない官僚が政治の筋書きを書く。これは戦前の官僚内閣制下の政治と全く同じだ。
 2年前、民主党に国民が期待したのは「天下り根絶」だった。天下りの弊害は福島原発事故に象徴される。無駄なカネが国から流れ、天下りの多い業界には談合がはびこり、天下り法人が民業を圧迫する。民主党がこの官業癒着の仕組みを追求したからこそ、民主党は大勝し得たのである。
 民主党の義務は「天下り根絶」のために天下りを前提とした国家公務員制度を根本的に変えることだった。公務員制度改革の必要性は安倍晋三政権の時に持ちあがり、行革担当相の渡辺嘉美氏(現みんなの党代表)が公務員制度改革基本法として成立させた。ところが麻生首相は公務員制度改革などは不要との姿勢を貫いた結果、自民党は大敗したのである。
 鳩山・菅と2代にわたって民主党への期待は裏切られた。政党支持率で自民党に逆転されたのは当然だ。”大手術”をやらないなら、日常の政治は慣れた自民党の方がうまく処理するだろう。東北大震災を見て民主党の無能がさらけ出された。
 民主党はあと2年で地に堕ちた評判を換回せねばならない。それには初心に帰って「天下り根絶」に真剣に取りかかることだ。真面目な改革案なら、自民党にも理解者は半分はいる。正攻法で攻めるべきだ。増税の前に必要なのは無駄を間断なく作り出している官僚制度を改革することなのだ。大連立などというのは無理筋、邪道だ。

                                               (8月17日付静岡新聞『論壇』より転載)
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