民主党の代表選挙で野田佳彦氏が逆転勝利を収めたのは、民主党を蝕んできた小沢一郎氏の退潮を明確に示すものだ。民主党はこれを機会に政権政党としての地歩を築けるのではないか。健全なる2つの政党が政権を争う形を待ち望んできたが、それに一歩近づいたことは間違いない。
今回の民主党代表選挙は5候補の獲得した第1回、第2回の数字を検証すれば明らかだが、党内の過半数が小沢氏の「傀儡政権」を拒否したのである。
小沢氏は10年6月鳩山辞任後の代表選で樽床伸二氏を担いで負けた。続いて9月の代表選挙で自らが立候補して敗れた。今回、小沢氏は政治資金規正法違反で強制起訴され、党員資格停止中の身でありながら、代表選の行方を左右するほどの動きを見せた。その態度には全く謙虚さが見られない。
小沢氏の願望は子分の執行部入りを果たして、党資金を握りたいというものだ。小沢氏は30名の自民党を率いて民主党と合併し、党の金を握ってグループを130人に増やした。反小沢派はもちろん中間派も、この小沢氏の所業を嫌悪している。このため菅政権は執行部から小沢派締め出した。小沢氏は派を養う資金源を絶たれた。これは小沢氏には大打撃で、新政府では何としても執行部に食い込むとの執念を見せた。
しかし130人と鳩山グループ40人を加えても、目ぼしい候補者が見当たらない。西岡武夫参院議長、輿石東民主党参院議員会長を口説いたが固辞された。そこで海江田万里氏に目をつけて候補者とした。海江田氏は議会での答弁の最中、菅首相に意地悪されたと云って号泣した人である。経産省を辞任すると明言して辞めなかった人だ。
そういう優柔不断さが小沢氏には都合がよかったのだろう。堂々「小鳩枢軸」の候補者として浮上した。それに当たっていくつかの条件を飲まざるを得なかった。
その最たるものが3党合意の白紙化だ。この3党合意は自公両党が「公債発行法」を通す代わりに民主党が4Kといわれるマニフェストを見直すというものだ。かねてマニフェストの実現を主張していた小沢氏としては貫きたい目標には違いない。しかし3党合意を白紙にすれば、今後、国会での与野党協議は成り立たなくなる。
今後とも衆参の議席数のねじれは半永久的に解消しないと見ていい。これまでの与野党の数による決戦ばかり追求していたのでは政治は前に進まない。
それを知って小沢氏はなお3党合意の白紙化を要求したのは、なぜだろう。
小沢氏はかねて「壊し屋」と呼ばれてきたが、どういう国造りを目指しているのか、全く見えなかった。自分が総理になってどういう国を造るのか、氏は語ったことがない。
加えて外交センスはゼロに近い。米国の国務省日本担当を30年間やったケビン・レア氏の「拒絶できない日本」(文芸春秋)では、小沢氏は「安保オンチの政治屋だ」と決めつけられている。
これが鳩山由紀夫氏と結びついたから、反米、親中政権になり、日本の安全を大きく損なった。菅首相は根っからの左翼。中国漁船の体当たり事件を隠蔽した。今回かついだ海江田氏も東アジア共同体論者で、国際政治については全くの無知。野田政権の外交政策は自民党とあまり変わらないだろう。ようやく政権交代の資格がある政党が生まれたといえる。
(8月31日付静岡新聞『論壇』より転載)
|