理事・政治評論家
 屋山太郎



  

「野田内閣は行革より党の一体化を狙う」

 野田佳彦首相は「自分の内閣についてネーミングはしない。他の人が名づけてくれたらいい」と述べた。このところツイッターやブログを見ると「財務省内閣」と呼ばれているようである。財務省時代から国会答弁や記者会見はさながら財務官僚が野田氏に乗り移ったかのようだった。財務・外務・防衛といった重要閣僚に経験もない軽量級を据え、全派閥均衡人事をやったのは、野田氏が「財務省内閣」で行こうとしている意思表示でもある。
 野田首相の意志は@均衡人事によって党内の不満を抑えるA財務省主導で各省を抑えるB軽量級を揃えて閣内での異論を抑える――ということだろう。各大臣や副大臣に「勝手にテレビなどに出ないよう」藤村官房長官が釘を差したのも、鳩菅時代に露呈した党内バラバラの印象を払拭する狙いだろう。これは明らかな言論封殺だが、民主党に先ず必要なのは、政権政党として思想的なまとまりをつくることに違いない。
 野党時代の外交政策は「国連第一主義」で国連への協力は「国連待機部隊」によって行う。この部隊は自衛隊とは別組織にするというものだった。日米中の関係を正三角形とするため鳩山由紀夫首相は米国離れを起こして中国に近づこうとした。その結果、起こったのが尖閣沖での中国漁船の体当たり事件だ。尖閣問題を国連で解決できないことは歴然だ。かくして日米基軸路線に回帰した。
 人権擁護法案、在日外国人の地方参政権付与も政権党として強行する価値は少ない。旧社会党系を中心に朝鮮半島の代理人の如き行動をするのは左翼イデオロギーが根っ子にあるからだ。イデオロギーを強調し過ぎると政権党として明らかにマイナスになる。鉢呂吉雄前経産相が失言辞任に至ったのは「原発はゼロになる」「死の町」「放射能うつしてやる」と社会党イデオロギーの体質が丸出しになった結果だ。
 民主党は2年間で外交・防衛問題について日米外交基軸以外にないことを学んだ。今後党内のイデオロギー過剰体質は徐々に薄れていくだろう。
 代表選の直前、細川護煕元首相は野田氏と小沢一郎氏を引き合わせた。細川氏は野田氏に「国民福祉税の轍を踏むな」と言ったそうだ。「消費税を引き上げる前に厳しい歳出削減をやれ」とも言ったそうだが、野田氏は最近さっぱり「行革」や「特別会計の整理」を言わなくなった。細川内閣の轍を踏みかねない危うさだが、細川氏の当時の行革手法はこうだった。
 当時、特殊法人の整理が行革の中心課題で細川氏は各省に「特殊法人の一つ廃止」を号令し、大蔵省に実行させようとしていた。「政治家がやろうとすると抵抗やごまかしが多く、時間がかかる」というのが細川氏の言い分だった。全省庁の特殊法人を廃止させてから、最後に大蔵省の東北・北海道開発公庫を潰すというのだ。結局この行革は未遂に終わるのだが、野田氏が行革のことを言わなくなったのは、「時間」を考えた上でのことではないか。野田氏の任期は1年、来年再選されたとしても総選挙まで2年しかない。
 政権の寿命が短いとみると官僚は行革に抵抗する。中曽根内閣は国鉄の分割民営化を断行し、小泉内閣は郵政の民営化を行ったが、いずれも5年の長期政権だった。野田首相ができない行革より、党の一体化を優先したのは賢明だったと云える


                                                (9月14日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 
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