政治家の使命は「財政の健全化である」と大阪の橋下徹市長は断言する。野田佳彦首相も「財政規律の回復」を標榜し、年金・税の一体改革を「不退転の決意で推進する」という。財政再建に向う意志は両氏とも全く同じように見えるが、両者への国民の支持率は月とスッポンほど違う。なぜだろうか。
橋下氏は大阪府知事に乗り込んできた時、「財政健全化」を叫んで5200億円の財政赤字を4年がかりでゼロにする方針に邁進し、職員の給与削減、退職金の5%カットに切り込んだ。28のハコモノも整理した。財政の効率化を図る過程で大阪府と大阪市の構造的無駄の解消が不可欠と判断した。
住民サービスは身近の基礎自治体(区)に任せ、「大阪都」は都市としての成長戦略を描かねばならないという。
一方で野田首相の「不退転の決意」は結構だとしても、そこに至る手順を間違えていないか。財政の健全化の前提は、無駄を切りまくる。その象徴であるハコモノを徹底的に整理するために、「天下り根絶」「渡り禁止」を揚げたのではなかったか。そのためにはどうしても公務員制度改革が必要になる。身分保障され、給与は人事院によって大企業並みのレベルが保障されるという仕組みを壊さなければ、構造改革はできない。国家公務員も地方公務員も現状のシステムが最善だと思うから、改革にはあからさまに反対してきた。
橋下氏は府知事時代、職員基本条例を提案して、5段階の勤務評価で2年連続最低評価なら免職、3回処分で免職という厳しい線を打ち出した。教員についても同様の趣旨が教育基本条例に盛り込まれている。
職員、教員の両条例について総務省は地方自治法違反、文科省は地方教育行政法違反だと指摘している。しかし橋下氏は「バカを言え。条例の方が常識的市民感覚。 国の法律を改正して貰いたい」と豪語している。
給与、年金、退職金で公務員は常に民間より優遇されている。その象徴が「天下りシステム」で、民主党はこの官民格差解消を公約(マニフェスト)に掲げて圧勝したのである。にも拘わらず、マニフェストになかった増税を「不退転の決意」でやると言う。これには、かつて「増税やむなし」と考えていた層までが反対に廻る気配を示しつつある。党内にも「増税反対」の気運が高まっている。
その気配を察した野田首相は14年4月から消費税8%、15年10月から10%に上げる前に「必ず天下り法人を4割削減する」と公約せざるを得なかった。野田氏の「新公約」を聞きながら、「この人はまだ解っていないな」と思ったものだ。これは借金取りに追われた人が「来月なら倍にして返す」と言い訳しているに等しい。倍にする目算がゼロだということは国民皆が知っている。橋下条例に匹敵する国家公務員改革に手を付けねば、官僚組織の構造改革もできず、のんべんだらりと規制社会が続くだけだ。
(1月04日付静岡新聞『論壇』より転載)
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