理事・政治評論家
 屋山太郎



  

 国民を侮る勿れ
―真の政治改革なくば国家存続はなし―
 
 政府、与党が社会保障・税一体改革を決定したことを受け、消費増税法案をめぐる与野党の攻防が政治の焦点となってきた。野田首相は法案提出前にも自民党との協議に持ち込み“大連立”で増税法案を結着させたい考えだ。 
 自民党がこの野田首相の提案に乗れば、予算と増税法案の審議が一気呵成に進み、野田首相は9月の代表選も乗り切る可能性がある。そうなっては同時期に総裁選を迎える谷垣禎一総裁の再選の目はない。加えて総選挙で自民党の勝目も薄くなる。谷垣氏としては通常国会の頭から審議拒否をして、予算の成立を阻止し、解散に追い込みたい腹だ。審議拒否の名目は「民主党はマニフェストで09年の衆院選で任期中は消費税を上げない」と公約したのだから「増税法案の審議前に解散せよ」という理屈だ。 
 これに対して野田首相は、「増税法が成立しても実施されるのは14年4月から8%、15年10月から10%。任期中(13年7月)に増税するわけではない」と抗弁しているが、これは屁理屈というものだろう。しかし谷垣氏も09年の衆院選では「責任ある野党として消費税10%程度は仕方がない」と言明していた。消費税増税の必要性を認めながら、政局に持ち込んで再選を狙うのは下策ではないか。果たして党内からは森喜朗元首相らが谷垣氏の「増税反対論」を戒めている。自民党の不人気は谷垣氏自身の魅力の無さにあるのだから、仮に早期の総選挙に持ち込んでも自民党が勝つとは限らない。 
 そこに政界台風の目として急浮上してきたのが橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」だ。維新の会は「大阪都」構想を掲げ、職員基本条例、教育基本条例を2月の府議会で制定しようとしている。「大阪都」は地方自治法の改正が必要で、自民・民主など主要党は法改正に強力の姿勢を見せている。しかし二つの基本条例は「地方公務員法、地方行政教育法に違反している」と総務省も文科省も言っている。 
 橋下氏の狙いは「条例は正しいことを言っている。法律に違反しているとすれば、法律の方を直して貰いたい」と国に喧嘩を売る構えだ。大阪都構想も実現へ動こうとすれば国の出先機関の在り方が問題となり地域主権、道州制へと議論が発展するのは必至だ。
 教員組合の現状、公務員制度の改革など、国は国家の基本問題に何も手をつけて来なかった。橋下氏は「大阪都」をテコに国政の中心部に切り込む腹を固めている。府市統合本部の顧問団に終結したのは、かつての「公務員制度改革本部」事務局を経験した“脱官僚”ばかり。彼らは官僚改革に燃えている。橋下氏には各党が協力を申し出ているが、今回の衆院選に候補を立てなければ、“空約束”に終わる可能性がある。従って「維新の会」は近畿一円に候補を立てるだろう。40議席前後を取れば、みんなの党と組んで政権のキャスティングボートを取れる。政権が自民であれ、民主であれ、改革をサボれば政権は終る。 

                                                                                                                                     (1月11日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載年別  
2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』
 

ホームへ戻る