理事・政治評論家
 屋山太郎



  

 「宰相の資質を備えよ」
―官僚支配からの脱却を急げ―

  初めて政権を獲った政党だから、最初からうまくいくとは思わなかったが、鳩山、菅二代の民主党政権は正に有史以来、最低の評価だった。そのあとを継いだ野田佳彦首相は極めて常識的で思想を持った人物だが、弱点が二つある。人事の下手さ加減と財務官僚を信用し過ぎることだ。 
 人事のまずさを象徴するのが防衛相人事だ。一川防衛相は正に言語道断の人事だった。防衛に素人だとしても、それを自ら口にすれば他国の侮りを受ける。自衛隊員の士気にかかわる。宮中の行事を大した用事もないのに欠席すること自体が、あり得ないことだが、それを他の集会に出て恩着せがましく「宮中の行事よりこちらの集会に来ました」と公言するのは国務大臣はおろか、国会議員としての資格もない。 
 案の定、参院で問責決議を受けて、交代となったが、それがなぜ田中直紀氏なのか。 
 これでは防衛相というポストを人事の穴埋めに使っているとしか思えない。 
 かつて「人事の栄作」と云われた佐藤首相は、改造に当たって倉石忠男農相に「後任は誰がいいか」と聞いた。倉石氏が適任者の名前を挙げたところ「彼は予算委員会に座っていられるかなぁ」と呟いたそうだ。その人物が極秘で持病の手術をしたことまで知っていたと云う。 
 佐藤内閣が5年7カ月も首相を続けられた最大の理由は人事の妙にあった。派閥が存在し、党内バランスを取り易い面もあったが、個人の心情、能力を知り尽くしていたからこそだ。 
 中曽根康弘氏もゴルフに行くときは特に新しい人を誘った。人脈を広げ、人を知るためだ。宮沢氏が夫人とゴルフに行くと聞いて「役に立たないことをしているなぁ」とコメントしたものだ。組閣の際は役所ごとにテーマを上げて説明し「こういう点に気を付けてやってくれ」と新大臣に指示した。 
 佐藤氏も中曽根氏も数々の大臣職をこなし、総理大臣となった人。野田氏は財務相を1回やって、いきなり総理大臣だから不利だが、あまりにも財務省の言いなりになり過ぎているのではないか。 
 民主党の公約は@徹底的な行革をやる A天下りを根絶する B民主党政権では増税はやらない―の3つではなかったか。 
 社会保障と税の一体改革担当に岡田克也氏を起用した。岡田氏は増税の前に行革をやらなければ公約無視になると思ったのだろう。102の独立行政法人のうち4割を統廃合し、特別会計17を11に減らすと発表した。「統廃合」というのは役所言葉で事業は何らかの形で残すということである。4割減らすというのは独法の理事長を40人減らすことだが、恐らく40人は役職名が変っても天下りを続けるだろう。 
 そういうインチキをさせないためには、天下りを前提とした公務員の人事制度を変更せねばならない。民主党が胡散臭いのは、公務員制度改革には手をつけようとしないことだ。 
 野田首相は財務相に飼い馴らされているのだ。                                                                                                                                      (1月25日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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