理事・政治評論家
 屋山太郎



  

今後のエネルギー政策の指針を示せ

 政府は再生エネルギーの開発に向けて懸命になっている。行政刷新会議(会長=野田首相)の「規制・制度改革に関する分科会」(会長=岡素之・住友商事会長)の作業部会がエネルギー分野の183項目について規制改革を行った。これに基づく改革法を3月中に閣議決定し、必要な法改正を順次行うという。この動きを受けて細野豪志原発事故担当相は「原発の運転期間は40年として守る」と言明している。日本には54基の原発があるが定期点検中や既に止まっているのが51基もある。この中で運転開始から30年以上経過した原発は13基ある。政府の方向は“脱原発依存”(野田首相)と云いながら、明らかに脱原発路線をひた走っている。
 先にIAEA(国際原子力機関)の調査団は日本側が行ったストレステスト(耐性検査)について「国際基準に準拠しており、妥当」との判断を保安院に伝えた。一方で電力会社に「安全基準をより具体化すべきだ」と勧告した。問題は電力会社が安全基準をより引き上げても住民の不安が消えない限り、原発の再稼働は難しいだろうということだ。
 電力7社の今冬の使用率は90%を超えた。ちょっとした超過使用があれば、いつブラックアウトになってもおかしくない状況にきている。かといって化石燃料で時を稼げるかというと、これも展望がない。世界人口は目下、70億人だが2050年には100億人になると云われている。日本はエネルギーの奪い合いに勝てるのか。負ければ確実に国家の滅亡である。サウジアラビアは日本の石油総輸入量の28%を占める国だが、そのサウジでさえ、いずれ石油が出なくなるのを知っていて、30〜40年先に原発を10〜20基建設する計画だ。日本に学者の育成などを依頼してきている。
 菅直人前首相が、フランス・ドービルで開かれたサミットで脱原発をぶち上げた時には、ドイツ方式の太陽光発電の買い取り制度(フィードインタリフ)が頭にあったはずだ。太陽光パネルを1000万軒の屋根にのせると大ボラを吹いた。ドイツの太陽光発電に寄与度はわずか1.9%で、原子力発電に匹敵する19%にするには、あと100年かかる計算だ。米国のウォールストリート・ジャーナル紙は「菅氏は脱原発の運動員になった」と蔑んでいる。
 現在、人類が使っている原子力発電所は440基で、2030年には1000基になる計画だ。その中にはお隣り中国の100基も入っている。中国で事故が起きたら、黄砂による被害どころではない。その中国が建設中のタイプがAP1000というもので、格納庫はお寺の鐘を伏せたような形で、水を使わない空冷式だという。上海の北方、車で5時間行ったところに合計6基造っている。
 安全性を極限まで高めた新しい原発の建設は既に始まっている。因みに福島原発の事故は既に存在する安全性を高める措置をとっていなかった人災と認識されている。
                                                                                                                                     (2月8日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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