理事・政治評論家
 屋山太郎



  

目先のテクニックで国民を愚弄する勿れ
―公務員制度改革・選挙制度改革に真摯に取り組め―

 行革を置いてけぼりにして、増税路線をひた走るのは何事か、野田政権に対して党内外の批判は強まる一方である。そこで野田首相は岡田克也氏を副総理兼税年金一体改革担当相に据えて、新規巻き直しを図ったようだが、民主党は政治の本線を歩んでいない。
 国民が望んでいたのは官僚の仕組の改革である。その象徴が天下りを官僚ポストの一環とする天下り体制の一新である。これには天下りシステムを根本から変えることしかない。
 しかし岡田副総理は「国家公務員の給与を2割削減するのは時間的に無理だから、2年間に限って7.8%を削減する」という。これだと2千9百億円ぐらいの倹約にはなる。加えて地方公務員に波及させれば、更に6千億円の削減になる。問題は岡田氏の発想が東日本大震災への支援金という位置づけだ。公務員が年金、給与、退職金で優位にあるシステムを直せといっている時に「カンパで勘弁してくれというのは筋違い」ではないか。
 橋下徹氏率いる「大阪維新の会」は地方公務員である日教組、自治労組合など地方公務員が政治に介入し、政治活動することを止めるために教育、職員基本条例を制定した。これは教育現場の環境をがらりと変える効果が期待される。正に正攻法であって、岡田式ツジツマ合わせよりは質の高い政治だ。
 議員定数の削減で樽床伸二民主党幹事長代行が奇妙奇天烈な仲介案を出してきた。民主党の公約は小選挙区300、比例部分180のうち、比例を80減らすというものである。もともと究極の選挙制度は純然たる小選挙区制度であって、80純減なら自民党も異存がなかったはずだ。
 しかしこれをやると公明、みんなの党、共産などは比例におぶさっているから割を食ってしまう。そこで樽床氏は80は減員するが、残り100議席は並立制(現行)で勘定するのではなく「連用制」によって計算すると言い出した。「並立制」は小選挙に入った政党票を小選挙区当選の多いものからドント方式で配分するというものだ。小選挙で大勝すれば比例も大勝する。ところが連用制は小選挙区と比例の2票を持ち、小選挙で多い党ほど配分が少なく、少数党に大きく配分する。
 読売新聞が09年の衆院選を基に行った試算では、比例定数を80削減した場合でも「連用制」で計算すると、民主党はわずか3に激減するのに対して、公明党は30を超える。公明党の現有議席は21だが、連用制に変えると80減員して増えるというのだから、そもそも選挙の意義を失わせる愚挙だ。
 そこで樽床氏は比例100のうち50だけを連用にすると言い出した。こうすると公明の現有議席を保証できるという。しかし目下、俎上にあげているのはまっとうな選挙制度の改正である。選挙はある意見について雌雄を決するために行うもので、そもそも世界には敵味方が共存する中選挙区などは存在しない。
 選挙の本質を曲げてはいけない。
                                                                                                                                     (2月22日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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