理事・政治評論家
 屋山太郎



  

民間団体に巣食う巧妙な天下りシステム

 年金問題が国民的課題として浮上している最中、集めた年金を運用する会社「AIJ投資顧問」(東京)が年金資金約2千億円を消失させたという。資金の大半は戻る可能性が薄いから、これまでと同額を退職した年金受給者に払うためには加入企業が分担して穴埋めする必要がある。年金に対する不信感が増幅しているこの時に、何故こんな不祥事が起こったのか。
 20年ほど前、日曜大工センター(ドゥ・イット・ユアセルフ)がまとまって業界団体を結成した。たまたまそこに招かれて政治の講演をしたことがあるのだが、終わってから控室で会長さんがボヤくのである。
 この会は同業者の親睦団体として発足し、会長が世話係をしようと思い立って始めたそうだ。もちろん人件費は不要だと思っていた。そこで親睦団体を作るのに、何か手続きがいるのかと思って業界を管轄する通産省(現経産省)に説明を求めた。すると係りの役人が飛んできて、協会の設立を強く勧められ、OKしたところ専務理事を一人押し込んできたという。要するに天下りだが、事務処理のためと称して、あっという間に事務員を4、5人雇ってしまった。専務理事の年俸は2千万円近くで、女子事務員と事務所経費まで入れると5千万円にもなったという。会長の片手間で済む話が一挙に膨れ上がったことに会長は「仰天しました」とボヤくのである。事はそれで収まったのではない。
 天下り専務理事が業界のために各企業が厚生年金に入った方がいいと、その利点を縷々説明した。「そこでOKしたところ厚生省(現厚労省)から基金の理事が送り込まれてきた。年俸1500万円でした。」
 基金の運用は専門家に任せた方が良いというのでやむを得ないと思ったそうだが、本業を引き継いだ子息からはえらく怒られたそうだ。子息はこの競争の社会で団体はおろか、天下りも不必要だと考えていたという。
 今回のAIJ問題はこういう中小企業が資金運用を任せ、年金資産約2千億円が消えたという事件だ。長妻昭氏が厚労相の時代、天下りの実態調査を行わせた。それによると09年5月時点で存在した614の厚生年金基金のうち、約3分の2に当たる399の基金に旧社会保険庁(現日本年金機構)などの国家公務員OBが天下りしていた。理事などの役員が466人、職員へは180人、計646人にのぼる。社保庁の職員などは実務には慣れているだろうが、基金運用などは未経験のはずだ。
 そこで「AIJ投資顧問」会社へ丸投げしてしまうのだろうが、丸投げが一ヵ所に集中するのはOB仲間が安易に連絡するからに違いない。かつて道路公団の談合が激しかったのは、建設会社に天下ったOB同志が、あうんの呼吸で話をつけたからだ。民主党はその天下り根絶に全く手をつけなかった。
                                                                                                                                           (3月14日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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