理事・政治評論家
 屋山太郎



  

スピード感増す政界再編
―守旧的官僚体制派と急進的改革派―

 野田佳彦首相は「ここで決断し、政治を前進させることができなければ野田内閣の存在意義はない」と消費税増税関連法案を断固推し進める意志を表明した。3月中に法案を閣議決定して国会に提出する構えだが、小沢一郎元代表は「採決する状況にない」となお反対する意志を崩していない。かといって野田首相からは当初、ほのめかしていた解散の意向は消え失せている。
 解散風が止まった理由は、民主党の支持率があまりにも低く、大阪維新の会が候補を立てた選挙区では完敗になる可能性が高いことだ。小沢氏の側も仮に4月26日の裁判で無罪を勝ち取ったとしても、選挙に勝つ理由にはならない。執行部と小沢氏は解散の不安なしで衝突できるわけだ。
 因みに読売新聞3月19日付全国世論調査によると、維新の国政進出に期待する人は63%に上った。比例選近畿ブロックの投票先では維新に投票すると答えた人は24%でトップ。2位が自民党の18%、民主党は10%、公明党5%、みんなの党と共産党が各3%
 府県別で見ると維新は大阪で31%の支持を進め、2位の自民党(14%)を大きく引き離し、和歌山、滋賀、奈良もトップだった。京都は自民党25%、維新13%、兵庫は自民党20%、維新18%だった。民主党は2府4県全てで、維新や自民党を下回り、3位に低迷した。維新が既に和歌山、滋賀、奈良に勢力を広げていることは、維新の改革方針が具体化し、政治がスピード感を持って進行する様子を見れば、維新ブームは全国に広がる可能性がある。
 小選挙区制度は二大政党制に収斂する制度だが、政権を争った選挙はまだ2回。このまま民主、自民党が交代に政権を担うのかと思わせたが、橋下旋風はこの二大政党の支配体制を打ち崩し、政界再編を齎すのではないか。
 その一つの兆候は野田首相と谷垣禎一・自民党総裁との秘密会談、岡田克也副総理と川崎二郎・自民党前国対委員長との二つの会談だ。会談は大連立を目論んで行われたと云われるが、その前提には消費税増税関連法案の成立と小沢外しがある。
 当初、国会運営が行き詰まった場合、野党が不信任案を出し、それに小沢グループが賛成して、野田氏を倒す戦術が考案された。野田氏は解散をしないという前提だが、もし解散をすれば小沢グループもほぼ全滅だろう。
 一方、谷垣氏が9月に再任される見込みはゼロだ。そこで9月以前の総選挙を望んでいるが、消費税の増税は以前から必要だと考えてきた。
 従って戦術とはいえ、増税反対をいつまでも続けるわけにはいかない。その足元を見透かして野田氏は大連立を持ちかけ、谷垣氏は小沢氏を外す条件を持ち出した。野田氏は自民党・野田派のような政治をやっている。次の選挙で維新やみんなの党が躍進すれば、守旧的官僚体制派と急進的改革派に再編される可能性がある。

                                                                                                                                           (3月28日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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