この稿が静岡新聞に発表される翌日(26日)に、“小沢裁判”の判決が出る予定になっている。世間は判決が白ならば政治活動再開、黒ならば民主党非主流派の沈没などと書くに違いない。しかし私は小沢氏が白であっても、黒ならば勿論、引退することを勧める。
その理由は第一に小沢氏は天下の大ウソつきだという点だ。小沢氏は07年2月に記者会見し、名義は小沢一郎になっているが、買った不動産は政治団体・陸山会のものだとする確認書を見せた。その買った不動産の中に裁判の中心となった世田谷の4億円の物件は入っている。ところがその後の裁判で、その物件は自分の資金で買ったものだと主張するに至る。もしそうならばテレビ会見で国民に見せた「確認書」は何だったのか。いかがわしい文書を見せてカネの問題に区切りをつけたかったのだろうが、うまくいかなかったのだ。裁判になったから本当のことを言うハメになったという見方もできるが、確認書の手品で全国民にウソをつき誤魔化そうとしたのはまぎれもない。このウソつきの罪は終っていない。政治家としての小沢氏の良心を問う。
小沢氏の政治手法は田中角栄風そのものである。かつて角福戦争のさ中、福田赳夫氏は角栄流の政治を評してこう言った。「1人がカネの力を使って50人を縛る。その50人が200人を支配して国政を壟断する。これは独裁だ」。
田中氏はその後、ロッキード事件を追求されて離党するが、カネと力を使って50人を100人に増やした。失意のうちに亡くなるのだが、小沢氏の人生は師匠の角栄氏と瓜二つだ。田中氏は土建業を主体に得体の知れないカネを握って権力を誇示したが、小沢氏は政党助成金という税金を使って私兵を肥した。
岡田克也氏が幹事長の時代、各議員への政党助成金の配分は、選挙時を除いて、等分に銀行振り込みされた。小沢氏が要職を占めると現金手渡しとなった。あたかも自分のカネであるかのように、本人か妻に取りに来させて手渡す。それを受け取る自分の姿に自己嫌悪を感じて党を辞めたという議員を私は知っている。
成金趣味と不公平、私物化。新進党を壊し、自由党を分裂させ、民主党に転がり込んで母屋を取る。その間に小沢氏が扱った不明金は28億円とも言われるが、その使途や配分額は一切明らかにされていない。このやり方はヤミ献金をやる代わりに政党助成金を創設して明朗会計にする趣旨に反する。
小選挙区制度に切り換えたのは、官僚内閣制から脱するために、政権交代のある政治制度を作ろうというのが目的だった。ところが今、野田佳彦首相はさながら、自民党・野田派の如き存在となり、財務官僚の操り人形と化している。
一方の小沢一郎氏は野田下しをけしかけているが、権力を掌握して何をしようと言うのか。小沢氏は理念も語らず、ただ権力を握ることだけが目的のようだ。この様は、古い自民党そのものだ。
(4月25日付静岡新聞『論壇』より転載)
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