理事・政治評論家
 屋山太郎



  

消費税増税・解散総選挙
―既に終わっている小沢氏の政治生命―

 税と社会保障の一体改革の実現に野田佳彦首相は「政治生命を賭けている」と言明している。首相の意気込みは今後も変わらないとみて良いが、成否を占うのは自民党側がいつ社会保障の改正案を出してくるかだ。民主党は自民党案が出てくれば“丸呑み”しても良い(岡田副総理)構えだが、出てこないのに増税案だけ成立させたのでは、財務官僚の思うツボ。「行革なしで増税」は世論の袋叩きに遭う。
 仮に6月21日の会期内、乃至は会期延長の7月中にでも出てくれば、民主党は即座に採決で応じてくるだろう。そうなると谷垣総裁が熱望する「解散総選挙」は不必要となる。野田首相は一体改革の代償に解散に応じてもいいと考えているようだが、準備しておいて選挙では、争点がボケてしまう。両党で同じような案を作って「どちらが良いか」というおかしな選挙になる。
 谷垣氏に解散に追い込む切り札があるとすれば、それは内閣不信任案を提出して、小沢グループを引き込んで可決することである。小沢グループは菅直人首相(当時)を引き摺り下ろす際この手を使ったが、鳩山グループが賛同しなかったために成功しなかった。
 今回、谷垣戦略に小沢氏が乗る可能性は全くない。不信任案可決で野田首相が解散を選べば、最大の打撃を受けるのは小沢グループで、派閥は雲散霧消し兼ねない。
 かといって一体改革に反対して野田氏に恥をかかせようとしても、自民党が賛成してくれれば、小沢グループの票など関係なしに増税案は可決する。では9月の代表選をめぐって野田降ろしが可能だろうか。
 当初は小沢氏自らが代表選に立候補して代表の座を奪い取ると言われていたが、無罪判決が控訴されて“被告人”の身に戻った結果、代表選に立候補しても勝目はない。
 小沢氏はかつて樽床伸二氏、海江田万里氏を自らの身代わり候補に立てて失敗している。党員投票では7対3で小沢側が勝っているのに地方議員選挙の段階では6対4で迫りながら負け、国会議員選挙で漸く5対5にこぎつける様相だった。要するに大衆の段階では小沢氏の人気は3分しかないのである。
 大衆人気が極めて低いのは、小沢氏が自ら言うように、「顔が可愛くない」からではない。大平正芳氏はどう見てもイケメンとは言えなかったが目の奥に優しさを秘め、凛とした倫理観を漂わせていた。小沢氏にはこのどちらも皆無なのである。
 自らは常に無言で側近に忖度政治をやらせ、政治資金について3人の秘書が有罪になりながら、「政治資金の収支報告書は見たことがない」と嘯く。裁判長が「信じ難い」と不信感を持つほどなのだ。
 読売新聞世論調査では検察官役の指定弁護士が控訴したのは65%が理解できる」という。毎日新聞では党員資格停止解除は53%が「必要なし」という。小沢氏の政治生命は既に終わっているのである。

                                                                                                                                           (5月23日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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