理事・政治評論家
 屋山太郎



  

橋下改革に期待を寄せる大阪市民
―果敢に取り組む馴れ合い・癒着根絶政治―

 月に4、5回大阪に行く度にタクシーの運転手や商店の主人、知人の家族などに橋下徹市長の評判を聞くのだが、今まで彼をけなす人に会ったことがない。これほど評判の良い政治家は私の経験上、初めてだ。なぜ評判が良いのか。
 橋下氏は府知事時代を通じて2つの原則を強調してきた。1つ目は、自分は府(市)民に選ばれた政治家であること。従って府・市の職員とは役割が全く違うこと。政治家の義務は財政の規律を守ること。財政は税金で成っているのだから、自分は府・市民の負託を受けており、府市の職員は私の命令に従う義務があること。
 2つ目は、地方公務員である職員や教員の規律を正すこと。そのために、最近、職員の入れ墨調査を始めて物議を醸している。職者の中には趣味や表現の自由の問題だと言う人もいるが、橋下氏にとっては世間の作法からみて“常識外”という判断なのだろう。言ってみれば頑固者だが、世の中には時に頑固な人が必要で、この人達が崩れる土手を支えている場合が多い。いずれにしろ、入れ墨調査という奇想天外の発想で、起立の問題に市民の耳目を集めたのは政治家として抜群のセンスだ。
 府知事時代、市長になってから、橋下氏が一貫して追求しているのは@財政の規律A職員の規律である。@については府知事時代、職員の給与カット16〜4%、退職金5%カットを断行した。市長になってからはごみ収集や下水道管理などの職員約8千人の月額給与を民間同業者に合わせ最大25%削減すると言う。現業職の年収は8百万円で、これから180万円を削るという。市バスの運転手などは民間より250万円も高いというから、歴代の市長は何をやっていたのか。
 府・市民から見れば、府・市の職員は人の税金をボッタクっていたと映るだろう。府・市民から選ばれた政治家が税の使い方を根本から改めようというのは当然だ。
 橋下改革についてポピュリズムと批判する向きがあるが、ポピュリズムというのは民主党のように、できもしない最低7万円年金を“公約”するようなことを言うのであって、部下である職員の給与を削って恨まれることをするのはポピュリズムではない。
 府・市の人件費がなぜこれだけ乱脈であったか。これは多くの地方自治体に共通するのだが、まず市長と職員組合が一体となる。前任者の平松市長の選挙運動を市の交通局職員が一体となって行っていたケースが摘発されている。当局と組合が馴れ合った結果、昇給や人事に組合が口を出すようになる。加えて府・市議会で与野党が馴れ合う。首長の中には旗幟を鮮明にせず「県民党」と称する輩が多い。首長、役所、組合、県議会が一体となって馴れ合えば、チェック機能はないに等しい。橋下改革はこれまでの地方政治の癒着や曖昧さを白日の下に曝しているのだ。

                                                                                                                                           (5月30日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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