6月21日の会期末を控えて、野田佳彦首相は遂に問責決議を受けた田中直紀防衛相と前田武志国交相を含む5大臣を交代させた。自民党の更迭要求に応えて「税と社会保障政策の一体改革」を前進させるハラを固めたということだろう。
野田首相は4日の改造人事発表後の記者会見で「消費税増税と社会保障は同時に成立させる」と述べた。しかし会期の残り時間からみて社会保障政策まで自民党との協議を終えるのは無理だろう。当然、会期は大幅に延長せざるを得まい。社会保障政策は子育て支援から生活保護、年金制度まで多岐にわたる。本来なら社会保障政策を全体的に組み立てて、総経費を計算し、これに基づいて消費税増税の規模が算出されるはずだが、なぜか増税幅は既に決まっている。
民主党は公約の最低月7万円年金は諦めているようだが、年金制度一つとっても自民党との間で考え方を一致させるのは容易ではない。そこで、増税法案だけ先に成立させるとなれば財務省に増税を食い逃げされかねない。
1千兆円に及ぶ国の借金は、自民党時代から官僚が必要な経費は使う。一方で政治家が選挙を恐れて増税を見送ってきたために膨れたものだ。
第一次野田改造内閣以来、岡田克也氏が副総理になって、官民格差の解消に取り組み始めた。財務省が岡田路線を許容したのは、官益を多少とも削らなければ、増税が不可能になりそうだと悟ったからだろう。歴代自民党を騙してきたようにはいかなかった。小沢一郎元代表が「公約を先にやれ」と言っているのは正鵠を得ているが、小沢氏にそれを言う資格はない。日本郵政の社長に斉藤次郎元大蔵次官を据えることよって、マニフェストの大看板をぶち壊したのは小沢氏本人である。“野田増税”が先行し、一体となるべき社会保障政策が遅れるとなると、自民党時代の二の舞になる恐れがある。
東日本大震災から復興予算の策定まで、実に6ヶ月を費やした。これについて当時、総務大臣を務めていた片山善博氏は2011 年10月25日の朝日新聞(オピニオン欄)で次のように述べている。
「私は第3次補正(本格)予算を早く決めましょうと言い続けてきたが、財務省が震災を機に増税をすることに拘って進まなかった」「復興のためなら国民も増税に応じるはずと、復興を人質にとった」「多くの与党議員が財務省にマインドコントロールされている。メディアも同じだ」。
みんなの党の江田憲司氏は11月9日の予算委員会で片山発言をひいて、当時財務相だった野田首相の責任を追及したが、「そんなことはあり得ない」の一点張りだった。
増税のためならどんな嘘でもつく。今回の官民格差の解消もまだ口先だけの約束だ。
(6月6日付静岡新聞『論壇』より転載)
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