鳩山由紀夫政権が打ち出した日中韓の「東アジア共同体」構想ほど、日本人の国際感覚や歴史観を狂わせるものはない。鳩山氏はまず日中韓の3国でEUのような共同市場を作り、更にASEAN(東南アジア諸国連合10ヵ国)を加えて通貨統合に至るような共同体を作りたいと云う。
東アジア共同体はかつて中国が「東亜共同体」という言葉で提唱していた。狙うところは日本も南北朝鮮も「華夷秩序」の中に取り込むということである。中華思想は中華を中心に周辺国を冊封国家として取り込む。この冊封国家を中国化したあとはその外側の夷狄を冊封国家とする。この同心円型拡張主義を続ければ、やがて世界は丸ごと中国になるという発想だ。
朝鮮半島は韓国も含めて中国の冊封国家だった。元寇の役の時の手先となったのは朝鮮半島の国家だった。日本が日清戦争を始めたのは、朝鮮が清国に統合されようとしていたからだ。19〜20世紀の帝国主義の時代に朝鮮が清国に併合されたらどうなるか。日本は朝鮮の独立を確保するために戦ったのが日清戦争だ。その証拠に下関条約の第1条には「朝鮮の独立を確認する」旨が書いてある。
中・韓両国にとっては本来、夷狄の日本がでかい顔をしているのは癪の種である。韓国は朝鮮戦争の際、中国軍の介入によって国土を焼かれ、何百万人の被害を蒙っている。韓国はそれについて中国に一切文句を言わず、日本には慰安婦だ、竹島だと非難を繰り返している。両方とも韓国の言い分は間違ってい
るが、中国の尖閣諸島についての言い分はデタラメとしか言いようがない。
竹島、尖閣と示し合わせたように騒ぎ始めたのは中韓が華夷秩序の下に一体となっているからだ。ブランド製品のコピーを作るのも同じ発想。つまり、自分で発明するより、真似た方が楽。それが罪になるという強い意識もない。中華文明と日本文明ははっきりと別物だとハンチントンは言っている。
鳩山氏の言い出したことはこの2つの異なる文明を同化させようということだ。明治の時代、岡倉天心や孫文は黄色人種の大同団結を叫んだが、福沢諭吉は「支朝(中国と南北朝鮮)と一緒になっていると日本は潰れる」と察して、後に「脱亜論」を説くようになる。
中国は東亜共同体を日本に、自民党時代から唱えている。そこで日本はASEAN10ヵ国とインド、ニュージーランド、豪州を加えた16ヵ国の共同市場を唱えるようになった。しかしマレーシアのマハティール元首相などは日印が組んでも中国には対抗できないと言う。
ここに降って湧いたのが、TPP(環太平洋経済連携協定)構想である。16ヵ国のうち問題の中・韓を外して経済連携のルールを作ろうというものである。多国間条約は後に中・韓が加入するときには既成の条文は変えられない。中・韓を国際規律に従わせるにはこの手しかない。
(8月29日付静岡新聞『論壇』より転載)
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