民主党は野田首相の再選が固い情勢となった。これに先立って党内から細野豪志環境相を担ぐ動きが急速に高まり、野田氏との一騎打ちなら勝てるだろうという状況が生まれた。結局、細野氏は「福島の復興に専念するのが私の役目」と述べて出馬を辞退した。「細野氏が良い」とのムードが一挙に高まったのは、細野氏なら選挙で「30議席ぐらいは余分に取れる」(党幹部)という計算である。
民主党が選挙について、こういう安易な考えでいる限り、将来はないと知るべきだろう。将来が見えないから、恐るべき民主党離れが起こっているのであって、党首に若いイケメンを担げば救われるなどという考えは馬鹿気ている。民主党が失望されているのは、あれだけ叫んだ「天下り根絶」を一顧だにせず、約束もしていない消費増税を“三位一体”と称して成立させた不正直、鉄面皮に国民が愛想をつかしたからだ。野田首相は「約束していなかった消費増税をして申し訳ない」と謝った。消費増税については、国民はいずれやらざるを得ないだろうと覚悟していたことは各種世論調査で明らかになっている。問題は手順である「天下り根絶」に本気で着手し、目途がついてからの増税なら国民は納得したのではないか。
なぜ民主党の手順が狂ったかと言えば、政権を丸ごと財務省に託してしまったからだ。財務省の権力は各省は勿論、国会議員の権力をも上廻る。なぜかと云えば主計を握り、国税を握っているからだ。各省は文句を言えば予算を削られるから、財務省の言いなり。国会議員が官僚制度の改革に乗り出そうとすれば納税のありようをチェックされる。財務省は「そういうことはあり得ない」というのだが、そういうウワサが広がっているだけで国会議員を黙らせる十分な抑止力になる。
安倍内閣はこのような強固な官僚体制は議会制民主主義をも壊すという認識で、行革担当相に渡辺喜美氏を据え、公務員制度改革に取り組んだ。本来なら民主党内閣がこの路線を引き継ぐ筈だった。その改革を象徴するのが「天下り根絶」のスローガンだった。
鳩山政権は当初、国家戦略局と内閣人事局の創設を打ち出した。国家戦略局は「財政、外交の基本方針を立てる」とされたが、大蔵省(現財務相)出身の藤井裕久氏に潰された。天下り法人は一つも潰されなかった。それどころか、自民党時代より、自由に天下っている。
日本の官僚は日本の経済、社会のあらゆる分野を取り仕切っている。これは戦中、戦後の統制経済の名残りで、この官僚統制体質を清算しない限り、経済、社会の活性化は困難だ。失われた20年、不況を抜け出す活力を生み出せないのも、統制体質が厳しすぎるからだ。全国民がこの官僚体質を嫌って民主党に政権を託した。しかし何も実績がないから「日本維新の会」に改革を託そうとしているのである。官僚改革を忘れた民主党は存在意義を失っているのだ。
(9月12日付静岡新聞『論壇』より転載)
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