野田内閣が打ち出した「2030年代に原発ゼロを可能にする」との方針は、戦後、非武装中立論を打ち出した社会党さながらだ。侵略する者は存在しないと信じて非武装を唱えたのと同様、野田内閣も「電力は足りるはず」と信じたいのだろう。しかし非武装路線がその後、成り立たなくなったように「原発ゼロ」路線は日本の経済を蝕み、国力を低下させることが目に見えている。
まず原発を再生エネルギーに置き換えるための投資に50兆円、省エネ対策に100兆円かかる。このためGDPは50兆円落ち、失業は200万人増えるという試算がある。経産省の計算では電気料金は2倍、GDPは2~15%減って失業は46万人増えると云う。
いきなり太陽熱に切り換えられないから、火力発電に切り換えると原油やガスの購買価格は年に3兆円も増える。今でさえ日本の電気料金は韓国と発電構成が似ているのに料金は2倍、これは電力会社の地域独占の形態がもたらしているのであって、再生エネルギーに切り換える前に電力会社の経営形態の変更が先決だろう。
太陽光エネルギーは先に1キロワット・アワー42円と設定された。これは専門家によると相当の高額だが、高額にしないと太陽パネルが普及しないからだと云う。パネル産業普及の目的で高い価格に設定したのだが、同様のことをしたドイツではパネルの7割が中国製で占められている。中国を儲けさせるために“脱原発”に走ったわけではなかろうが、脱原発がもたらす影響をまるで計算していない。菅直人氏と孫正義氏との談合と言われる所以だ。
日本は原発を開始するに当って米・英・仏などと複雑な取り決めを結んでいる。米国は日本の使用済み核燃料の再処理を容認し、技術力向上で日本とタッグを組んでいる。日英、日仏とも原子力協定を結んで、日本は使用済み核燃料の再処理を英仏に委託し、その際に発生する放射性廃棄物を日本に持って来て青森県に仮置きしている。
世界中が脱原発に動き出しているなら、全員で歩調を合わせて方向転換ができるだろう。しかし複雑な連携で成り立ってきた原子力政策を日本が勝手に「一抜けた」と止めるのなら、まず協約国との協議が必要だろう。
原発がゼロになると使用済み核燃料を再処理する必要がなくなり、青森の六ヶ所村が事実上の最終処分場となり兼ねない。青森県は「もしそうなら、今貯めてある再処理分を引き取れ」と強硬に言っている。
もっと不可解なのは、あらかた完成している青森県・大間原発は「建設をしていい」(枝野経産相)と言う。原発を「40年で廃炉」と決めながら、大間が稼動すると廃炉は2050年以降になる。論理破綻も甚だしいが、原発ゼロの動機となったのはGEの福島第1号機である。この炉はその後の検証で建物の標高が低すぎた、予備電源を地下に設置したなど人災が明らかになっている。人災を基に国家の大方針を変えるな。
(9月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
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