民主・自民が果たせなかった官僚制度改革
―「日本維新の会」への国民の期待 ―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 

  野田首相の「近いうち」解散の約束がホゴになりそうな気配だが、年内か年初には解散をせざるを得なくなるだろう。政権は自民党に移りそうだというので、自民党5候補の総裁選演説は前回、谷垣氏を選んだ時と違って熱を帯びていた。尖閣問題が突発して、安全保障、防衛問題の重要性が浮上し、経済をめぐってTPP問題も取り上げられた。
 各候補者の演説を聞いて、官僚制度の改革、言い換えれば公務員制度改革に触れたのは、安倍晋三氏が「東北復興省」に触れて、「タテ割の役所が効率を妨げている」と指摘した程度だった。森喜朗元首相、古賀誠元幹事長ら長老派は石原伸晃氏を「長老の意見を聞く」というので推奨しているらしい。この長老派はいずれも政治は官僚がお膳立てするものと信じて政治をやってきた人達だ。明治の官僚内閣制の延長線上で政治を仕切ってきた。謂わば「官僚が出過ぎる」政治を当然と思って来た人達で、今も過去の“体制”に戻せば政治は安定すると思い込んでいる。
 官僚支配体制が出来上がったのは戦中、戦後の統制経済を通じてだった。戦後の復興期までは統制経済はうまく機能していたといっていい。統制経済の後遺症として公社、公団、特殊法人の設立が相次ぎ、役所から物資の配給を受ける立場の企業は天下りを受け入れた。この結果、官の発想が民業に浸透し、何かといえば同業種の業界団体を設立し、団体の事務局長や理事長を官僚が握るという風習が出来上がった。この官業体質は各業種に浸透し、自由な競争より、業界全体に利益をもたらす規制を望むようになった。
 その体質の象徴がカルテルや談合である。日本ほど独禁法違反事件の多い先進国はない。天下りや業界団体を通じて、談合がし易い仕組が温存されている。経済社会の自由が疎外され、統制時代に発揮された効率性が逆目に出ているのである。
 こういう官と民の癒着を打破するためには公務員制度を根本から変えなければならない。
 安倍内閣で発想され08年に成立した「国家公務員制度改革基本法」では@内閣人事局 A国家戦略局の創設を13年7月までに完了すると書いてある。この改革の意味は各省の幹部人事を内閣で決める、内政・外交の基本方針も財務省や外務省ではなくて、内閣が決める―というものだ。政治主導である。
 この大改革をやるためには手始めに「天下り」を根絶しようというのが、民主党のスローガンだった。国民は官僚優位の体制に強い不満を持っていたからこそ、民主党を大勝させた。ところが、民主党がやったことは、天下り法人一つ潰せず、約束もしていない消費増税をやった。民主党の人気は地に堕ちたが、その分、自民党の支持率が上がったわけではない。大阪維新の会の橋下徹氏が役人の給与をカットし、天下り法人を府でも市でも約半分にした。日本維新の会に国民は民主党がやり損なったことを託そうとしているのだろう。


                                                                                                                                           (9月26日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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