安倍晋三自民党総裁が新政権づくりに向けてダッシュしている。安倍氏の最優先課題はデフレ脱却と成長戦略の実行だ。安倍氏のデフレ脱却戦略はこれまでの財務省の常識や手法とは真っ向から衝突する。
これまでの財務省の伝統的考え方は、財政と金融の分離。極端に言えば日銀の独立性確保だ。バブルの頃、財務省から金融庁を独立させて財・金分離の証しとしたが、その後、金融庁は財務省の出先機関の様相を呈している。財務省のいう日銀の独立にしても、常に事務次官級を送り込んで、財務省の意向だけは日銀に通じるようになっていた。財・金分離は建前で、財務省が金融庁は勿論、日銀までもコントロールしているのが実態だ。
財務省が強大な力を持って全省に君臨し、各省の政策でも財務省のOKが出ないと予算がつかない。戦前、内務省が官僚内閣制の軸となっていたが、現在は財務省が軸となった官僚内閣制と言える。
財務省の力は役所に君臨するだけではなく「税と社会保障の一体改革」の過程をみれば首相と野党第一党の党首を呼びつけて、消費税の増税までやらせる力があることがわかる。
民主党政権はこの財務省支配を打破するため、「国家戦略局」の創設を企図した。同局の目的は「財政の基本方針を定める」というもので財務省・主計局を上回る力を持たせようとした。しかし立法に当って藤井裕久(大蔵省OB)氏の、「立法は時間がかかるから『局』ではなく『室』にして大物を持って来ればよい」という意見で立法を見送った。
その代償として財務省が与えたのが「行政刷新会議」の下での「行政仕分け」と言われる芝居だ。財務省は各省予算の査定をするが、甘くせざるを得ない予算もある。それと「仕分け」の場で議員に切らせ、議員の手柄にしてやるという手だ。蓮舫行政刷新担当相(当時)が「予算の無駄を切って切って切りまくった」ようにマスコミは報じたが、裏で材料を提供したのは財務省なのである。主計の権限は温存し、憎まれ役を議員に押し付けたのである。
以上のようないきさつを安倍氏は百も承知だ。その上で安倍氏がとった戦略は、かつて小泉政権時代に、竹中平蔵氏が「経済財政諮問会議」を仕切った手法の復活だ。安倍氏は「この諮問会議に日銀総裁も出席して貰う」と述べている。財務官僚や日銀がどう言おうと、この会議の場を通じて「政治主導」を発揮する腹を固めたようだ。
従って安倍氏は新政権では「国家戦略担当相」も「行政刷新担当相」も廃止する意志を示している。法的裏付けのない国家戦略担当相は全くの無力だ。目下、前原誠司氏が務めているが、可哀想なくらい、有形無実の存在にされてしまっている。自民党は官僚内閣制を是とする守旧派がワンサと当選してきた。この中で財務官僚と闘う方法は、議論を公然とするしかないと安倍氏は思い至ったようだ。
(12月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
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