国会同意人事に見る与野党の攻防
―官僚の天下り人事を排除せよ―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 国会同意人事をめぐる与野党の攻防は馬鹿げている。自民、民主とも問題の本質がわかっていない。
 同意人事に関わる取り決めの最大の愚劣さは「人事案件が国会にかかる前に事前に洩れたら不承認とする」との項目である。
 国会の同意が必要というからには、重要な人事案件に決まっている。これを公表前に洩らしたら無効とするという取り決め自体が大間違いだ。全マスコミが狙っている人事が公表までスクープされないと考える方がおかしい。スクープされたら本命の人物であっても他の人物に取り換えざるを得ない。これは洩らしたマスコミに懲罰するつもりなのだろうが、それがお国のためになるのか。最適の人物をこそ国会指名して貰いたい。いくら取り決めがあってもマスコミはスクープ合戦をやめる筈がない。やめるようなら御用新聞だ。
 みんなの党と橋下氏が同意人事につけている注文は「天下り人事には反対」というものである。
 公正取引委員会の委員長に安倍内閣が候補として出してきたのは元財務事務次官の杉本和行みずほ総合研究所理事長(62)である。民主党は提示を拒否。みんなの党は財務省OBの起用に難色を示している。その理由は橋下徹日本維新の会共同代表が言うように「民間の活動を見張るのは型にはまった官僚じゃない方がいい」というものだ。
 白川日銀総裁が総裁の辞任を申し出たため政府は正副日銀総裁3人の人事を3月19日までに決めなくてはならなくなった。目下のところ候補には学者2〜3人、財務省OB3人ほどの名前が上がっている。このうちの1人は前回、民主党が拒否した武藤敏郎(当時副総裁、現大和総研理事長)元財務事務次官である。
 日銀には常時2人の財務省OBが在籍し、ほぼ常時、1人は副総裁役を務めてきた。言い換えれば、日銀は常に財務省の支配下にあった。日本では日銀が財務相の支配下にあっても仕方がないとみられてきたが、その矛盾を暴き出したのがアベノミクスである。
 10年前、日銀で、インフレ目標が議論されたが、強引に封印された。今回、安倍首相は日銀法を改正して、総裁のクビを替えてもインフレ2%目標を目指すとの政治意志を示した。財務省の思惑を排し、日銀総裁のクビを狙うまでしないと首相の意志を通せない行政機関などは米・欧の先進国には存在しない。
各国中央銀行のスタッフはすべて民間出身で、自国政府の思惑とは別の目標を立てる。衝突すれば話し合うシステムだ。麻生財務・金融担当相は強く武藤氏を推しているようだが、この際、政府の要衝から官僚OBは一掃すべきだ。というのもOBは本省の意向で動くため、社会・経済・金融全体が官僚統制の様相を帯びるからだ。武藤氏は大和総研、杉本氏はみずほ総研の各理事長である。シンクタンクの大所をほぼ完了OBに握られているのでは、自由な政策を打ち出せるわけがなかろう。国会同意人事から順次、官僚OBを排除せよ。
 
                                                                                                                        (平成25年2月13日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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