TPP交渉に猛反対の農協
―独禁法違反の農協にメスを入れ、農家を救え―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉に参加すること自体にJA全農、JA全中は猛反対しているが、日本農業を取り巻く環境の変化は5年前、10年前とは様変わりである。もともと農業協同組合は英国のロッジデールを手本にした専門農協だったはずだ。専門農協というのは生産物を高く売ってくる、肥料を安く買ってくるといった得意分野を持った“商社”である。
 しかし日本の農業“商社”は農業協同組合という総合デパートのような存在でスタートした。生産物を売ってやるが、肥料を買わなければ融資を止める、などという農協中心の商売体系が出来上がった。こういう裏で条件を付ける取引は独禁法の「不公正な取引方法の禁止」事項にあたる。独禁法違反ケースがしばしば発生しているが、なぜ発生するかと言えば、そういう“反則”をしないと農協が儲からなくなったからだ。
 大規模に農業をやっているところは、こういう無体な注文をつける農協とは付き合わなくなる。2006年の時点で、売上高3億円以下の農業法人の4~8割は農協に融資を仰ぐが、3億円以上の法人だと4~6割が地方銀行と付き合っている。
 大型農業法人の農協離れが顕著である。
 農協の儲けは生産物、肥料、飼料などの販売手数料によって賄われている。コメ1俵(60キロ)1万5千円だと売りで1割、買いで1割、計2割(計3千円)の手数料が入る。コメ価格は2000年頃に比べると3割下落している。1俵1万円では農協には2千円しか入らない。これでは困ると農協は1割の定率制をやめ手数料は安くても高くても3千円という定額制に切り替えた。米価1万円でも3千円の手数料を取ることにしたのだ。これは「7千円ショック」と言われ、農家が農協は全農家が利益を守ってくれる存在ではないと、気が付いた。
 農協の利益を確保するためには1俵の単位は高く維持しなければならないと、農協は半ば強制的に減反を強要し、1俵1万5千円ラインに戻そうとしている。そのために減反は水田面積の6割にも及んでいる。このカルテルのために国は毎年2000億円を国に支出させ、累計補助金は7兆円に及んでいる。
 果樹、蔬菜の分野は自立した専業農家が多く、農協や国の援助などは期待していない。企業センスがあればいくらでも儲かる分野だ。問題は減反を強要されているコメ作り農家だ。20ヘクタール以上を経営する農家のコメコストは1俵4〜5千円だという。これまで農水省が守ろうとしてきた農家は1〜2ヘクタール規模の農家で、この規模の農家は今は兼業でやっているが、子供たちは都会暮らし。農業を継ぐ気はない。農地を相続しても耕さないから、耕作放棄農地は40万ヘクタール(全農地450万ヘクタール)に迫っている。今後5年間で現在250万人いる農家の70万人以上が引退するという。TPPに入らなければこの落ち目の傾向が止まるのか。

                                                                                                                        (平成25年2月20日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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