日米首脳会談で日本は懸案のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加を表明し、日米双方が「全ての関税撤廃をあらかじめ約束する」ことではないと確認した。このあと米国議会が日本の参加を認めるかどうかの審議期間が残っているが、日本は加盟参加を前提に国内の態勢整備に入ることになる。
TPP参加について全国世論調査をすると必ず参加賛成が反対を上回るが、自民党内では200人以上の議員が反対連盟に結集している。安倍首相が頭を抱えるのは、政党支持率も内閣支持率も高いのに、7月の参議院選挙での勝ちが保証されないことだろう。
TPP交渉で最も困難なのは農業分野と医療分野だ。一方で政府が成長戦略の要と見込んでいるのもこの分野である。この2分野があくまで“後進的”になったのは、それぞれ強い業界団体を抱えてきたからだ。
利益擁護の“業界政治”に飽きて国民は民主党を選んだ。本来なら反対党が政権をとったのだから、自民党的利権団体は溶融してもおかしくはない。ところが民主党がやったことは自民党の団体ごと、民主党の所有物にしてしまうことだった。07年には自民党は日本歯科医師連、日本医師連盟、全国農政連(JAグループ)、全国商工政治連盟など4つを握っていたが、それが10年にはこの4団体は民主、民主、自主投票、自主投票に変り、13年には4つとも自民支持に帰ってきた。
野田前首相もTPP参加を喉元まで言いかけたが、支持母体になりつつある団体に遠慮して言えなかった。今回、安倍首相は農業、医療という最もシビアな団体に手をつけなければならない。かと言って農業、医療の業界に手をつけなければ、この業種が完全に保護されるかと言えば逆なのである。農業などは「保護」と叫んでいるうちに、産出高は11兆円から8兆円に減った。医療関係の貿易は先進国では11番目に下落した。世界で最先端の医療技術があり、医療機器の産出も可能なのに、何と毎年3兆円もの入超なのである。
戦後の日本が大発展したのは何もかも焼けたから既得権はない。新しい分野に進出するから慣行もない。だからこそ経済大国に行きついたのである。それが経済、財政政策も波風を立てず、米国やEUが景気が良くなってきたら、その景気にあずかろうというケチな考えに陥ったからこそのデフレである。
中程度の国を目指そうとか、小国でいいなどと考えること自体、国家が落ち目の時である。アベノミクスはもう一段上の大国を目指そうという政策である。
一段伸び上がるためには既得権の打破が不可欠だ。日本農業の栽培技術、種苗改良の天才的技術、土壌の良さや水の清潔さ、農民の勤勉さ、どれをとっても日本の農業条件は最良だ。農業団体が目標を高く改定して、自らの殻を破ることだけでも農業は飛躍する。
医療問題は規制撤廃や混合診療の導入だけで活性化する。取り敢えず入超だけは止めよ。
(平成25年2月27日付静岡新聞『論壇』より転載)
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